子育て中の親の悩みが幸せに変わる「29の言葉」を紹介した新刊『子どもが幸せになることば』が、発売直後に連続重版が決まり、大きな注目を集めています。著者であり、4人の子を持つ田中茂樹氏は、20年、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けた医師・臨床心理士。

本記事では、親から子どもへの贈りものになる、単純な「1つの行動」を紹介します。(構成:編集部/今野良介)

子育てする家庭で「一概に言えること」がある

『子どもが幸せになることば』という本の中で、あまり「こうしたほうがよいですよ」ということは書いていません。どうしたら「よい」かは家庭によって違うので、一概に言えないことが多いからです。

でも、一概に言えることがあります。

それが、「感謝の言葉をはっきり伝えること」です。

一緒に暮らしていれば、日々の暮らしは、相手へ感謝する場面にあふれています。

たとえばこれを書いている今朝、私は、妻に「風呂の洗い場のゴミ、ありがとう」と言いました。一昨日、髪の毛やゴミが溜まっているなと気がついたのですが、翌日やろうと思って、そのままにしていました。昨夜、風呂に入ったとき、きれいになっていたことに気がついたのですが、ありがとうを言うのを忘れていました。そして、今朝、思い出したので、すぐ言いました。

掃除といってもおおがかりなものではなく、脱衣所に置いてある使い捨ての手袋で、かき集めて捨てるだけです。でも、その1つのアクションが面倒なことがありますよね。私はぼんやり暮らしているので、いろいろとやってもらっているのに、あまり気がついていないようです。なので、気がついたときには、必ず言葉をかけるようにしています。

このメリットは大きいです。相手がいい気分になってくれたら、一緒に住んでいる自分にも、いいことが跳ね返ってきます。家庭の中がいい雰囲気になれば、そのメリットは全員が享受できます。

そして、子どもにとって、もっと具体的ないい点が3つあります。

勉強以上に大切な「感謝の早期教育」3つのメリット感謝の早期教育3つのメリット

[1]言葉がけが上手になる

どういう言葉をかけるか、その選び方が上手になります。

「ありがとう、助かったよ」「いつもありがとう」「うれしいわ」「えー! ありがと!」「やったぁ!」「結構大変やったやろう、覚えててくれたんや」……などなど。言葉としてのバリエーションもそうですが、抑揚や「間」、表情やアクションも、同じぐらいに大事です。

さらに重要なのは、感謝の言葉を生み出すもとになる「自分の心の動き」に敏感になることだと思います。相手がしてくれたことに気がついた。そこで心が動く。その動きを逃さない。深いところから、ぐっと水面まで引き上げて、言葉にして外に出す。

その心の働きも、筋トレをすれば筋力が上がるように、トレーニングするうちに強くなってきます。これらは、実践の場で何度も何度も練習することで、洗練されていきます。

[2]見る目が鍛えられる

相手が何かをしてくれたときに限らず、何かいい変化があったときや、ポジティブな声かけができそうな場面に、敏感になります。

ちょっと言葉はよくないのですが、「褒め上手」になるわけです。ときには本人が気がついていないような行動の結果にも、いいコメントをしてもらえると、言われたほうはうれしい驚きを味わえます。

これはいわば「あら探し」の真逆の視点であり、その力がどんどん鍛えられていくわけです。

[3]それらコミュニケーションすべてを、子どもにモデルとして示せる

相手に感謝をどうやって伝えるか。毎日、いろいろな場面で親が見せてくれると、子どもは学習します。「感謝の言葉を伝えるということのネイティブ」になるわけです。これは重要なコミュニケーションスキルです。

このコミュニケーションスキルに関して、わが家はいわば早期教育をしていることになります。子どもたちは「ありがとう」とか「わーい!」などと、お礼の表現がとても上手です。私や妻よりも、ずっと自然にできています。

このスキルは家庭内にとどまるはずがありません。これから彼らが生きていく人間関係の中で、いろんな場面で発揮されるはずです。