夕焼けの荒廃した平原にネームが入っている。「西暦1620年 ドイツ南西部 プファルツ選帝侯領」。なるほど、ここまではっきりしていれば、ちょっと検索すれば舞台がわかる。

 プロテスタントとカトリックが神聖ローマ帝国、すなわちドイツ・オーストリア圏を南北に二分して戦った「三十年戦争」の発端の年は、プロテスタントのプファルツ選帝侯フリードリヒ5世がボヘミア王に選出された1618年である。

 プロテスタントのボヘミアの貴族たちが神聖ローマ皇帝のおひざ元で反旗を掲げたことになる。フリードリヒ5世はカトリックが支配的なバイエルンを支配するヴィッテルスバッハ家の同族だが、プロテスタントである。

 カトリックのオーストリア大公にして神聖ローマ帝国皇帝のフェルディナント2世はもちろんハプスブルク家の同族で、カトリックであるヴィッテルスバッハ家のバイエルン王とともにフリードリヒ5世がよるボヘミアの鎮圧を指示する。戦乱はボヘミアから西方のプファルツに広がる。これが『イサック』第1巻の冒頭、1620年の様相だ。

フィクションを織り交ぜながら
「三十年戦争」を精密に描く

 この「三十年戦争」第1段階の結末は西洋史の本に出ている。皇帝フェルディナント2世のカトリック軍が勝つことになるのだが、そのプロセスで、作者は空想の都市、城塞、人物を織り交ぜ、史実を左右に動かしながら物語を展開していく。

 コミックスは第6巻まで発行されているが、時間の経過はわずかだ。たぶん数ヵ月だろう。第1巻で、傭兵イサックがプファルツ選定候軍に信頼されるまでのストーリーが抜群に面白い。

 イサックはオランダ語を習得し、オランダ船でヨーロッパへやってきた。そしてオランダ独立戦争の指導者、プロテスタントのオラニエン公マウリッツから信書をもらい、プファルツ軍を支援する100人編成のオランダ軍の傭兵としてやってきた。

 ところが、プファルツを攻撃するカトリック軍は同じカトリックのスペインから9000人の大軍を招いていた。その数に圧倒されたオランダの支援軍100人は逃げてしまうのだが、イサックはただ1人、プファルツの城にやってきたのだ。