日ロ平和条約の“カード”にしたい安倍政権の執念

 世界で最も取扱量が多い日本のLNGビジネスを牽引してきた百戦錬磨の三菱商事、三井物産であっても、今回の出資は迷いに迷う難しい決断だった。というのも、アーク2は極めて政治色が濃いプロジェクトであり、ロシア国内の政治、そして日本政府の思惑も絡むものであったからだ。純粋な経済合理性だけで判断できるものではなかった。

 安倍晋三首相は両社以上にこのプロジェクトへ執念を燃やしていたといってもいいだろう。

 民主党から政権を奪還し、12年12月の第2次内閣発足から6年以上の長期政権となり、安倍首相は後世に評価されるようなレガシーをつくりたい。憲法改正や北朝鮮拉致被害者の返還を実現する見通しが立たない中、北方領土返還を含む日ロ平和条約の締結で勝負をしたい。

 ロシア側は平和条約の締結を時期尚早と拒否し、日本側による経済協力が先だと主張している。日本側は平和条約締結交渉を前進させるものとしてアーク2の“カード”を切りたかった。

 安倍首相の意を酌んだ政府は両社を“援護射撃”する弾を用意した。政府出資の独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、三菱商事と三井物産がアーク2に出資した場合、その出資額の75%を支援する方針を示した。

 JOGMECには資源開発を進める日本企業に資金援助する制度がもともとあるが、通常は出資額の50%が上限だ。ただし、「特に必要と認める場合」はその上限を75%まで引き上げることができる。今回のアーク2を特例としたのである。