「選ばれしエリート青年」が
中国を選ばなかった理由

「中国のエンジニアのプロジェクトマネジャーの平均年収は、大卒で7万5000ドル(約825万円)です。一方、米国の場合は“新卒で7万5000ドルのスタート”ですから、条件は米国のほうがいいとはいえますが…」

 そう語る李君だが、辞退したのは給料の多寡ではなかった。むしろ彼が気にしたのは“中国本土の空気感”だった。李君は中国の親戚から「民間活動への政治的圧力が次第に強まっている」ことをたびたび聞かされていたのだった。

 また、李君が深センでインターンをしていた時期は、中国企業が不景気によるリストラを進めているただ中でもあった。アリババ、バイドゥ、京東、滴滴など中国の“巨頭”をはじめとする多くの企業が事業を縮小し、人員カットにも乗り出していた。中国のビジネス環境の悪化から、外資企業は投資を控え、外国籍の人材も減り始め、先行きに不透明感が漂っていた。

 金銭的待遇、目の前のリスク、情報へのアクセスや発言の自由度、そして将来の成功――。それらを総合的に考慮して李君が出した結論は、「就職先は中国企業ではない」というものだったのだ。

 中国行きを断念した李君は、米国企業に照準を合わせて就職活動を再開した。しかし、企業に履歴書を送っても、なかなか面接に進めない状況が続く。トランプ政権による移民受け入れ制限の影響によって、就職の門戸はすっかり閉ざされてしまったのである。

 その後、李君は日本にやってきた。日本のアニメファンを自称する彼は、日本企業にも高い関心を向けていたのだ。このとき筆者は、米中貿易戦争での“漁夫の利”よろしく、日本が米中を避けた高度人材を獲得できるのではないか、という淡い期待を抱いた。