権威主義的な国では、「政策の間違い」をリーダーが隠す。全てがうまくいっていると「大本営発表」だ。そして、国民が本当のことを知るのは、経済がめちゃくちゃになり、クーデターなどで体制が転覆されて、貧困に陥ってからだ。気が付いた時には、後の祭りということだ。

 英国民は、メイ政権とEUとの間の離脱交渉のプロセスを、いいことも悪いことも全て見ることができた。そして、3年前の国民投票の時には知らなかった、EU離脱の困難さを理解することができた。

 英議会への請願を受け付けるウェブサイトには、離脱の取りやめを求める署名が集中した。ロンドンで、100万人を超える人が「EU残留」を求めてデモを行った。だが今、英国民には「間違い」を正す方法がない。国民投票にはやり直しの規定がないからだ。

「やり直し」機能こそ民主主義の本質

 世界中に「ポピュリズム現象」が広がっている。そして、例えばスイスなど、さまざまなポピュリズム政党が、「国民・住民投票」を利用して台頭してきた。「成果」を問うことができない「希望」を感情的に訴えるには、国民・住民投票はポピュリズム政党の格好の道具となってきたからだ。

政治巧者・英国のEU離脱混迷は「不慣れな選挙」が理由だった本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されました。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 ポピュリズムは、「国民の真の声」を訴えて、選挙で過半数を得たことを「民主主義」だとして絶対に死守しろと主張する。だが、それは、「民主主義」ではない。国民の判断の正当性を守るために、都合の悪い事実を隠したり、捻じ曲げたりせねばならなくなるからだ。いわば、国民の判断を絶対的な正当性とする権威主義、「国民権威主義」とでもいうべきものだ。

 この連載では、何度でも繰り返してきたが、民主主義とは「多数決で決める」ことだけではない。その後の政策の実行をオープンに行い、「間違い」があると国民が知れば、政権を交代させることができる「やり直し」の機能が確保されているのが民主主義だ。

 そして、国民・住民投票を民主主義的に実行するならば、いかに「期待」を感情的に判断する度合いを薄めて、政策そのものを国民が冷静に評価できる制度と、政策が間違っていたら「やり直し」ができるルールを定められるかが大事ということだ。これ以上のポピュリズムの台頭を防ぐためにも、慎重に検討を重ねていく必要があると考える。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)