新しい時代の「リーダーシップ」として今、「オーセンティック・リーダーシップ」に注目が集まっている。優れたリーダーの「目指すべき姿」を真似るスタイルから、真正で嘘のない、自分らしさでチームを導いていくオーセンティックなリーダーへ。

「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」では、地位や肩書によってリーダーの力が決まっていた時代の反動ともいえるこの傾向に注目し、 EI〈Emotional Intelligence〉感情的知性シリーズの最新刊として『オーセンティック・リーダーシップ』を発売した。

その刊行を記念して、日本ラグビー協会でコーチングディレクターを務め、リーダーシップに関する著書や監訳書を多数出版している中竹竜二氏と、カルビー常務執行役員であり、日本の人事部「HRアワード2018」企業人事部門 個人の部で最優秀賞を受賞した武田雅子氏に、いまなぜオーセンティック・リーダーシップが求められるのか、自分らしいリーダーシップとはどのように培っていけるのかを語ってもらった。(構成/田坂苑子 写真/斉藤美春)

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「勝利の追求」よりも「個人の幸せの追求」がいい結果を呼ぶ

中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、株式会社チームボックス代表取締役、一般社団法人スポーツコーチングJapan 代表理事。1973年、福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部に入学し、ラグビー蹴球部に所属。同部主将を務め全国大学選手権で準優勝。卒業後、英国に留学し、レスター大学大学院社会学部修了。帰国後、株式会社三菱総合研究所入社。2006年、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。2007年度から2年連続で全国大学選手権優勝。2010年、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチも兼務。2014年、リーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立。2018年、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。

中竹 講演の時にも話しましたが、選手たちには「自分の幸せをいちばんに考えてください」って、よく言うんです。これ、スポーツの世界ではほぼタブーだったんですよ。「いや、幸せより目の前の試合でしょ」って。自分の幸せ云々より、勝ちがすべてだと。チームより個人の幸せと言うのはタブーだった。

 でも私は個人の幸せを考えることは非常に大事だと思っています。最近よく耳にする「GRIT(グリット)」、つまり「やり抜く力」を身につけるのにも、非常に有効なんです。10年くらい前までは、スポーツ界で最も大事なものは勝利、勝つことだった。でも勝つことを頂点にしている人たちは長続きしないんです。なぜなら、負けることで大事なものを失ってしまうから。

 それよりもwelfare(幸福・福祉・福利)、選手の健康的な幸せを大事にするとどうなるか。勝つことよりも大事なものがあることで、「人生長い中、こういった負けもある」と、その負けに執着しなくなる。論理的に無駄な時間を過ごさなくなるんです。試合に勝った負けたで左右されなくなる。そうすると寝やすくなるし、起きやすくなる。勝ちこそすべてだと言われてきたら、負けると大変なことになるんです。明日どうやって挽回しようかと考えて眠れなくなる。

 論理的に時間の無駄ですよね。これまでスポーツ選手たちは、そんなこと言われてこなかったし、個人の幸せを考えるのは格好悪いし恥ずかしいことだとさえ思ってきた。でも自分の幸せを考えることで健康になり、パワーにつながっていくんです。

武田 今うかがっていて、仕事でもまさにそうだなと思いました。営業などでも、数字だけを追求するチームになるとギスギスするけれども、まずはメンバーの幸せやコンディションに気を配ることで、結果的に数字は最後についてくる、ということを前職で何度も経験しました。数字だけ追っているマネージャーって、おっしゃるとおり長続きしないんです。でもメンバーのそういうベースの部分を見ているマネージャーのもとだと、みんなの実力以上の実績が出たり、新規ビジネスの提案だったり、想定以上のいい結果が出たりする。今、中竹さんのお話を聞いていて、すごく似ているなと思いました。

 マネジメントとしては、結局それがいちばんエコなんだと思うんです。怒らなくていいし、大げさに褒めなくていいし。私自身、それほど体がタフなわけではないので、エコなマネジメントというのはずっと意識していることです。怒るのは疲れますし、パワフルマネジメントは本当に向いてなくて……。

中竹 怒るのが苦手な人は、怒ることがストレスになりますからね。私もあまり怒らないほうですけど、勝負どころではもちろん怒ったりもします。準備をしていれば、感情というのはある程度コントロールできるものなんですよね。

 たとえば、選手に舌打ちをされたり、ため息をつかれたりしても、私はそもそもダメな監督だというのを認めているので、怒りは湧いてこない。恥ずかしいとか、コンプレックスだと思っていることを言われると、人はムッとしたり敵対感情を抱いたりしますよね。言われたくないことというのは、大抵自分がいちばん気にしているコンプレックスなんです。だからこそ、言われたくないことは避けて通るよりも、意識して開示したほうがいいんです。

 「恥」に関する研究でも、恥ずかしいと思ったことは「恥ずかしいんだけど、実はこういうことができなくて……」というふうに開示したほうがいいと言われています。弱みをさらけ出すことで、少しずつ自分らしさを出していける。これはトレーニングできることなんです。自分が恥ずかしいなと思うことをあえて言葉にするトレーニングをしていくといいと思います。

 とはいえ、自分らしくあること、弱みをさらけ出すことにはデメリットもあると思うんです。誤解を受けたり、信頼をなくしたりするかもしれないという不安や、すぐ結果が出ないということもある。そういったリスクや懸念点について、武田さんはどうお考えですか?