エロスとバイオレンスが
漫画界を大いに刺激

『子連れ狼』の連載終了後に始まった『弐十手物語』(作画・神江里見)は、小池の作品でもっとも連載期間が長かった作品だと思う。江戸町奉行所に勤める同心の物語だが、これもまた陰惨で憂うつな物語が続いていた。もちろん明るく大団円を迎えるストーリーもあるのだが、強く記憶に残っているのは暗い物語である。

 ちなみに、『弐十手物語』は「週刊ポスト」(小学館)で1978年から、なんと2003年まで連載されていた大長編である。

 小池一夫の紡ぐ物語の特徴は、重苦しい物語にエロスとバイオレンスを織り交ぜ、激しく誌面にたたきつけたことだろう。これは彼以前の漫画や劇画にはなかったものだ。

 小池より早くデビューしていた劇画原作者といえば、同世代の梶原一騎(1936~87年)が代表的な存在だった。梶原は『あしたのジョー』『巨人の星』、『赤き血のイレブン』など、スポーツを舞台にした熱血漫画で社会現象まで生み出していた。それに対し、小池のエロスとバイオレンスは漫画界を大いに刺激したと思う。

 軽妙なエロスを前面に出し、70年代の高校生をドキドキさせたのは「週刊漫画アクション」で1971年から73年まで連載された『高校生無頼控』(作画・芳谷圭児)である(電子書籍で購入可能)。

 鹿児島の高校生ムラマサが、1969年の東大紛争後に行方をくらませた兄を探して東京へ旅をするロードムービー・スタイルの漫画で、道中で出会う各地の女子高生らをナンパしつつ難問を解決していくという物語で、当時の男子高校生に圧倒的な人気があった。

 ムラマサが薩摩示現流の使い手だという時代劇のような伏線もあり、こんな高校生なんかいるわけがない、とわかっていても若い読者を夢中にさせた作品だった。

 小池は90年代以降、作品数を減らすが、後進の指導には非常に熱心だったようだ。2000年に大阪芸術大学教授に就任し、原作者や漫画家を養成している。定年退職する2009年まで教職にあった。

 近年は『人を惹きつける技術』(講談社、2010年)、『ふりまわされない。』(ポプラ社、2016年)、『だめなら逃げてみる』(ポプラ社、2018年)といった自己啓発書を多く執筆していた。

 このように文化史の大きな潮流を作った漫画原作者は、空前絶後の存在である。合掌。

(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)