【おとなの漫画評 Vol.4】
『石ノ森章太郎の物語』石ノ森章太郎
2018年8月刊 三栄書房
『石ノ森章太郎の物語』は1998年に60歳で亡くなった石ノ森章太郎のアンソロジーである。2018年は没後20年、生誕80年のアニバーサリーイヤーのため、テレビドラマやさまざまな書籍が出版され、石ノ森章太郎の漫画家人生が改めて注目されている。
テレビドラマは8月25日に放映された「ヒーローを作った男 石ノ森章太郎物語」(日本テレビ)で、中島健人が石ノ森を、林遣都が赤塚不二夫を演じて話題となった。
なぜ石ノ森作品の女性は
美しいが、常に哀しみをたたえているのか
さて、本書がユニークなのは、石ノ森本人が登場し、漫画家人生の節目を描いた作品を編んだところにある。1960年代から90年代に発表された15本だ。最後の4本は明らかに創作だが、11本は自伝的な作品である。
手塚治虫、赤塚不二夫、藤子不二雄A、藤子・F・不二雄、石ノ森章太郎らが住んでいた伝説的な木造アパート「トキワ荘」を描いた小品が多いのは当然だろう。
石ノ森は宮城県佐沼高校在学中に手塚治虫のプッシュでデビューする。高校卒業後に手塚が住んでいた東京都豊島区のトキワ荘に住むことになるが、病気治療を兼ねた美しい姉が同居した。このあたりのいきさつはよく知られている。姉は喘息をこじらせて早世してしまう。彼の作品に登場する女性の多くが、常に哀しみをたたえているのは亡くなった姉を投影しているからだろう。
例えば『サイボーグ009』に登場する003だ。『サイボーグ009』は1964年から「週刊少年キング」(少年画報社)に連載されていたと思い込んでいたが、1966年からは「週刊少年マガジン」(講談社)に移り、70年代以降は複数の出版社で断続的に掲載されていたという。連載開始の前年、1963年6月に映画「007ドクター・ノオ」が日本でも公開されて大ヒットしたので、009は007に触発された漫画かと思ったが、まったく関係なかった。
『サイボーグ009』は、主人公の009(島村ジョー)を中心に、各国から集まったサイボーグ9人の悲劇的な人生を縦糸にして、自分たちを作った死の商人「ブラック・ゴースト」との戦いを描く物語だ。ヒーロー集団による冒険活劇である。009の能力は、奥歯のスイッチをカチリと押すと、ものすごい加速力で空間移動するところにある。9人はそれぞれ特定の能力を極限まで拡大されているのだ。
紅一点の003はフランス人のバレリーナで、視力と聴力が抜きんでていた。何より哀しみをたたえた大きな目が印象的で、男子小中学生の読者をくぎ付けにしたものだ。石ノ森の作中人物は、いずれの場合にも深く沈潜して思考する人物が多い。