D部長はため息をついた。

「成績トップの要因はB課長の功績なので大目に見てきたが、これからはそういうわけにもいかないなあ」
「今後も同様の事態が起こる可能性を考えると、懲戒処分といったケジメをつける必要はあるでしょう」

 E社労士の見解を得たD部長は翌日、AとB課長、C主任を呼び出し、個別にランチ会当日や普段の様子を詳しく聞いた。話をまとめていくうちに、E社労士の指摘通りの結論になった。D部長は再びB課長を呼ぶと強い口調で迫った。

「居酒屋で営業会議とは何事だ!万一ネットにでも書き込まれたら取り返しのつかないことになるんだぞ!君は秘密漏えいに対する危機意識が足りない。Aさんを会議に参加させず面談をしないのはパワハラ、さらに無理やり酒を飲ませ、イッキまで強要したのはアルハラだ。おまけに私の注意は聞かないし、救急車騒ぎの報告もない。君のこれまでの功績を鑑みて大目にみてきたが、ここまで問題が大きくなるとフォローすることは難しい」

 D部長の毅然とした態度に、B課長は何も言い返すことができなかった。D部長は続けた。
「来週早々に上層部の会議で処遇を決定するので、それまで外勤は控えてくれ」

 会議の結果、B課長は平社員に降格となり、隣県の営業所に左遷されたため「B課長と飲む会」は消滅した。後任の課長がくると、課員たちの不満がD部長にも伝わってきた。

「新任の課長は缶コーヒー1本さえ奢ってくれないケチ野郎だ」
「B課長と居酒屋で会議していた頃が良かった」等々……。

 仕事ができて気前のいいB課長は課員たちから慕われていたのだ。やがて課内は重苦しい雰囲気になり、Aもやる気を失ってしまった。このままでは営業成績トップの座から陥落するのも時間の問題だ。D部長は困ってしまった。

 一方、B元課長は仕事が終わると、近所の居酒屋で毎日酒を飲んでいた。そして職場内の先輩や同僚らが加わり、やがてLINEグループ「Bと飲む会」が新たに結成された。噂で知ったD部長は複雑な思いだったが、今度はプライベートな集まりなので注意はできない。C部長はつぶやいた。

「低迷が続けば、Bは将来、捲土重来を期して1課に戻ってくるだろう…」

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。

補足情報アルコールハラスメント(アルハラ)とは
アルコール飲料に絡む嫌がらせ全般を指す。国としての明確な定めはないが、アルハラ問題に関する日本の代表的な組織である特定非営利活動法人ASK(アスク)では、アルハラとして以下の5項目を規定している。
1.飲酒の強要
2.イッキ飲ませ
3.意図的な酔いつぶし
4.飲めない人への配慮を欠くこと
5.酔ったうえでの迷惑行為