「全身麻酔で頭は眠っていても、知覚神経に備わった痛みセンサーは作動し、痛み信号を発信していることが分かっています。記憶にないだけなのです。術後の慢性痛を予防するために、切開時にもちゃんと、局所麻酔を行うべきです」

 これは初耳。慢性痛には、いまだ解き明かされていない謎が多そうだ。

痛みの“現場”に局所麻酔
トリガーポイントブロック注射

 火災同様、初期消火を重視するのも、加茂院長流。

 痛みの“発生現場”に、直接、局所麻酔注射をし、「一刻も早く、痛みを取り除く」のが「トリガーポイントブロック注射」だ。痛みの発生現場には、第一現場(損傷を受けた部位とトリガーポイント)と第二現場(痛みを感知する脳と脊髄)があるのだが、加茂院長は第一現場(数ヵ所から十数ヵ所!)に局所麻酔を注射する。

「ここは圧痛点か、トリガーポイント(参照記事:「手術をしても改善しない腰痛患者があふれている理由」)かを探りながら注射します。反応はすぐに出ますので、効果を確かめながら注射することができます。非常に細い針を使うので、注射の痛みを訴える患者さんはほとんどいませんし、局所麻酔剤は安全性の高い薬剤なので、妊婦でも高齢者でも安心して使うことができます。

 注射の深さは、触診しながら、痛みを感じている筋肉の位置を想定して行います。熟練を要するとすれば、このあたりでしょう」

 トリガーポイントブロック注射の目的は次の通り。

 ・発痛物質の洗い流し(注射液のシャワーで洗い落とす)
 ・交感神経をブロックして、末梢の細い動脈を拡張させることによる血行改善
 ・筋緊張の改善(コリコリに固まった筋硬結をゆるめる)
 ・痛覚伝達のブロック(痛みの電気信号が知覚神経を通らないよう遮断する)

「要するに、痛みを一時的に抑えるのではなく、痛みの悪循環を阻止して、自然治癒の働くきっかけを作っているのです。痛みは、急性痛のうちにやっつけてしまうのが一番。慢性痛に移行したものに対しては、トリガーポイントブロック注射に加え、薬物療法や心理療法、運動療法などの方法を駆使して対処しています」

 ちなみに『慢性疼痛治療ガイドライン2018』(厚生労働省)には、「トリガーポイント注射の有効性を結論づけるにはエビデンスが不足しているが、短期的には有効性を示すエビデンスがある。熟練した専門医が行えば比較的安全で容易に施行できる手技であるため、痛み治療の一助として用いてもよい。その際には使用薬物や施行頻度の考慮が必要である」と書いてある。

※押すと強い痛みを感じるしこり