ベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』が話題の山口周氏。山口氏が「アート」「美意識」に続く、新時代を生き抜くキーコンセプトをまとめたのが、『ニュータイプの時代――新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。
モノが過剰になり、意味が不足している今、私たちに求められているのは、「なぜ働き続けるのか」「仕事を通じてどのように幸福になるか」を考えること。現在、働き方改革により仕事の「量」ばかり語られるが、大切なのは仕事の「質」、つまり「働く意味」をどうやって回復させるかである。組織を率いるリーダーも、「HOW」を語れる人より、「WHAT」や「WHY」を語れる人の価値が増していく。
切り替わった時代をしなやかに生き抜くために、「オールドタイプ」から「ニュータイプ」の思考・行動様式へのシフトを説く同書から、一部抜粋して特別公開する。
【オールドタイプ】HOWを示して他者に指示・命令する
【ニュータイプ】WHAT+WHYを示して他者をエンパワーする
「VUCA時代」のリーダーに最も大切なこと
――モンテーニュ(*2)
ビジネスにおいて私たちが向き合う大きな論点には「WHAT=目的は何か?」「WHY=それはなぜ大事か?」「HOW=どうやってやるのか?」の3つがあります。
特に組織の中でリーダーシップを発揮することを求められる立場にある人なら、この3つの論点に関する自分なりの方針を明確化し、組織に浸透させることが必須のこととして求められます。
ところが、ここで注意が必要なのが、これらの3つの論点の優先順位は、状況や文脈に応じて変わってくる、という点です。
たとえば市場の競争状況が固定的で大きな変化がないという状況であれば、重要になってくるのは「HOW」ということになります。つまり、どうやって同じことを競合よりも効率的にやるのか、というのが経営上の大きな論点になってくるということです。
あるいは一刻の猶予もない危機的状況ということであれば、悠長に「WHAT」や「WHY」を話している時間はなく、とにかく「HOW」だけを指示してまずは難局を乗り切ることが先決でしょう。
しかし一方で、現在のようにVUCAな世界にあって、かつ「モノが過剰化する一方、意味が枯渇している」状況で、「HOW」だけで組織を引っ張っていこうとするオールドタイプのリーダーシップでは、組織に方向づけを与えることも、モチベーションを引き出すこともできません。
このような世界にあって、ニュータイプは「WHAT」と「WHY」を示し、組織にモーメンタム(勢い)を与え、モチベーションを引き出して組織のパフォーマンスを高めます。
前回も「意味」の重要性を指摘しましたが、言うまでもなく「意味の枯渇」は、そのまま「WHAT=目的」と「WHY=意義」に関わる問題です。
(注)
*1 モンテーニュ『エセー』より。
*2 ミシェル・ド・モンテーニュ(1533年2月28日~1592年9月13日)。
16世紀ルネサンス期のフランスを代表する哲学者。モラリスト、懐疑論者、人文主義者。現実の人間を洞察し人間の生き方を探求して綴り続けた主著『エセー』は、フランスのみならず、各国に影響を与えた。