麻薬に溺れる人間は、バカで自業自得?
「崖や麻薬のケースについては命の危険があるのですから、それは子どもと同じように止めるべきではないでしょうか?」
「いや、だから、それ言い出したら、いくらでも自由が制限できるって話でしょ。だいたい、いい大人にもなって崖がありそうな場所に近づいたり、麻薬を打ったりするような人は……よほどのバカってことじゃない。どうなろうと自業自得なんじゃないかしら」
再び言い合いになる副会長と庶務。残念ながら全然着地してなかったようだ。
「バカか……たしかにそうだな。自由主義の問題は、結局はそこに行きつくか」
先生は、ミユウさんの「バカ」という言葉に反応して感慨深そうに言った。
「乗り物を運転するときのヘルメットやシートベルト着用の問題を考えてみよう。たとえば、ヘルメットをつけずに自転車を運転しても基本的には問題はない。なぜなら、普通の人は、普通の速度で普通に運転するからだ」
「だから、街に買い物に行くだけで、見通しの良い平坦な道を制限速度できちんと走るつもりであれば、『私はヘルメットをつけなくても大丈夫』という判断を自己責任で行い、ヘルメットをつけずに自転車に乗る自由を人間は権利として持っているはずである」
「だが……実際には、その判断ができない、判断の甘い人間も存在する。本来そういう人には、『私は安全な運転をする能力がない人間なので、ヘルメットをつけるべきである』と判断してほしいのだが、愚かであるため―つまりバカであるため―その判断ができない。そして結果として、ヘルメットをつけずに危険な運転をして事故を起こし、死亡してしまう……」
「こういう人間は、社会に一定数存在する。そこで国家としては、こう宣言するわけだ。『とにかく、全員ヘルメットをつけなさい』。もちろん、これは強制であり、自由を奪う行為なのだが……」
そして、先生は、黒板に向かって次のことを書き出した。