「いいね!」はユーザーを抵抗不能な「依存症患者」にする
彼らの懸念には根拠がある。最先端と言われる世界に携わる彼らは、2つの真実に気づいているのだ。
1つは、人が依存症(addiction)というものを非常に狭い意味で理解していること。特殊な人間だけが抱える症状だと考え、該当者を「依存症患者」と呼ぼうとする。空き家にたむろするヘロイン中毒者。ニコチン漬けになったヘビースモーカー。処方医薬品を乱用する偽患者……。こんなふうにレッテルを貼って一般人と区別している。いつか依存症から脱することもあるのかもしれないが、少なくとも今のところ、彼らはそういうカテゴリーに属している人間なのだ、と。
だが真実は違う。依存症は主に環境と状況によって引き起こされるものだ。スティーブ・ジョブズはそれをよく心得ていた。自分の子どもにiPadを触らせなかったのは、薬物とは似ても似つかぬ利点が数多くあるとはいっても、iPadの魅力に幼い子どもは流されやすいと知っていたからだ。
ジョブズをはじめとするテクノロジー企業家たちは、自分が売っているツール――ユーザーが夢中になる、すなわち抵抗できずに流されていくことを意図的に狙ってデザインされたプロダクト――が人を見境なく誘惑することを認識している。依存症患者と一般人を分ける明確な境界線は存在しない。たった1個の製品、たった1回の経験をきっかけに、誰もが依存症に転落する。
『ニューヨーク・タイムズ』の記者ビルトンが取材した専門家たちは、デジタル時代の環境と状況が、過去に人類が体験してきたどんな環境よりも依存症に結びつきやすいことを悟っている。1960年代の人間にとって、目の前にちらつく危険な釣り針はほんの数本だった。タバコか、アルコールか、ドラッグか。それらは高価で、簡単に手に入るものでもなかった。
だが2010年代になった今は、そこらじゅうが釣り針だらけだ。フェイスブック。インスタグラム。ポルノ。メール。ネットショッピング……。これほど誘惑の種類が多い時代は歴史上類を見ないというのに、私たちはこうした釣り針の威力をわずかに学びはじめたばかりだ。