頸椎の次にあるのが胸椎だ。1999年に、骨の形態的な特徴および腕神経叢の位置という解剖学的な特徴から「キリンの第一胸椎は、本来は第七頸椎だと捉えることができる」という内容の論文が出されていた。少しわかりにくいが、首が長いので、第一胸椎が八つ目の頸椎のようになっているのではないか、ということだ。

 しかし、この論文の結論は、かなり否定的に捉えられていた。大学3年生の時にこの論文を遠藤から渡されていた芽久さんだったが、その時は全く理解できなかった。だが、修士課程にはいって、この論文に偶然再会したとき、これをテーマにしようと決める。芽久さんもすごいが、将来を見通していたかのような遠藤先生のメンターシップもすばらしい。

 ここからは研究の話だ。キリンの解剖だけでなく、近縁種だけれどあまり首が長くないオカピの比較検討も必要だ。キリンに比べるとオカピの飼育数ははるかに少ない。しかし、幸運にも冷凍されていた生後まもなく亡くなったオカピの標本が手に入った。キリンの赤ちゃんの遺体も手に入った。それらをCTスキャンにかけて、オカピでは動かない第一頸椎が動くことを確認した。

研究で大事なのは
自分が面白がること

 最終的に、キリンの第一胸椎は、定義上は肋骨がくっついているので胸椎だが、機能的には「8番目の “首の骨”」であることを明らかにする。決定的な証明をすべくおこなった解剖のドキュメンタリーは、まるでプロジェクトXだ。

 役にたつ研究を、とか言われることが多い昨今だ。いまは役にたたなくともいずれ役に立つかもしれない、とか、おためごかしのようなことが言われることもある。しかし、断言しよう。キリンの第一胸椎の研究がいずれ何かの役に立つことなど絶対にありえない。

“誰かの役にたつような研究を、とか、世界を救うような研究を、という高尚な志をもって研究の道に入ったわけではない。ただただ、「子どもの頃から好きだったものを追求したい」という一心だった”

 それでいいのだ。好奇心が導く芽久さんの研究はむちゃくちゃおもろい。本の後半、第一胸椎研究のストーリーにはいってからは、ワクワクドキドキ、そして感動しながら一気に読んだ。役に立つとか立たないとかよりも、研究で大事なのは、まず自分が面白がることだ。そして、他人に面白がってもらえることこそが研究の真骨頂なのである。学術振興会も、よくぞ郡司芽久さんを育志賞に選んだものだ。お目が高いっ!いやぁ、おっちゃん研究者、大興奮の一冊だ。

(HONZ 仲野 徹)