「官能」が増える場所から
ニュータイプが出てくる
IT批評家、藤原投資顧問、書生
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『どこでも誰とでも働ける』など多数。
尾原:落合さんは、彼らがやったことはマイナスのマーケティングだと言っていましたね。今までは足し算でやっていたところを、「ここまで削るのか」というところに美を見出した。
TEDに「less is more」というトークがありますが、つまりは「こんまり」なんです。少なくしていくことが、自分に豊かさをもたらす。more is moreからless is moreにいく境目が何かあるのでしょう。
山口:less is moreは、いろいろなところで起こっている気がします。機能を付加するのではなく削ること。さきほど昭和的価値観や近代の終焉について話しましたが、静かなブームになっている地方移住や薪ストーブなんかは、近代の全否定ですよね。
本来、家の中で火を入れるのは危険だから、科学技術の進化によって高性能でエコロジカルなエアコンが生まれたわけです。でも、今はわざわざ薪を買ってきて火をつける人がいる。
尾原:今年のミラノサローネでは、ルイヴィトンが「ボヘミアンの時代」をテーマにしていましたね。旅行鞄で始まったブランドとしての原点回帰かと思いきや、まったく逆で、家庭の中で旅行気分を味わえるような、違和感の作り方を示したものでした。日常の中で非日常を味わうというのがポイントだったんです。ある種、薪ストーブにも近い。
山口:どのジャンルでも自然に近くなり、「情報量」が多くなっていることがポイントです。自然は情報量が多いんです。近代化とはノイズを少なくしていくことでしたが、ノイズを含めた情報量をどんどん増やしていくのが今後の大きな流れです。
情報量を増やすことで「官能」が増える場所というのが、ニュータイプが出てくる場所になるのかなと思います。
尾原:この前聞いて面白いと思ったのが、世界的に有名なクリエイティブ・ディレクターのレイ・イナモトさんの考え方です。脳科学的にブランドとは何かを突き詰めていったときに、感情の窓口となっている扁桃体がポイントになるそうです。
扁桃体が短期記憶から長期記憶に変換しているらしいのですが、どういう記憶が残りやすいかというと、感情を伴った記憶なんだそうです。逆に言えば、ノイズの少ない便利な記憶は残りにくい。となると、いかに感情に傷跡をつけるかが、ブランドを作る上では大切になるわけです。
山口:情報量というと、bitに変換されるような情報を考えがちですが、そうではなく、例えば苔の上を裸足で歩くと、ものすごくぞわぞわしますよね。それは、bitに変換できない、五感によるものだと思うんですね。
視覚だったり聴覚だったり、感情を伴う記憶であり、金木犀の香りをかいだら秋が来たなとか、渚の音を聞いたり蚊取り線香のにおいをかぐと夏だなと感じたり。つまり五感を揺り動かすものに価値が生まれるということです。