「お客様本位の営業が徹底していなかった」とは「お客を食い物にしていた」という意味ではないのか。

 かんぽの「乗り換え」も、ゆうちょの「投信販売」も現場で起きていた。特別委の調査を「かんぽ」に限定したことは、現場で起きた事件の半面にしか光を当てないことを意味する。

 持ち株会社の日本郵政は本部エリートの集団で現場から遠い。彼らにとっての懸案は、年内に予定している株式の第2次売り出しだ。

 上場後発覚したオーストラリアの物流会社トールへの投資失敗など悪材料を帳消しに収益を示すことが課題となっている。だが頼みのゆうちょ・かんぽは超低金利で採算が悪化している。集めたカネを国債で運用していれば利ザヤが稼げたのは昔の話。日本株も頭打ちで運用収益は振るわない。

 いきおい、投信や保険の手数料稼ぎに力を入れ、過剰なノルマを発生させた。金融事業を頼りに上場するという無理が現場に重い負担をかけてしまった。

モラル崩壊の追い打ち
アベノミクスの超低利

 振り返ると、かんぽと同様の「乗り換え」は、バブル崩壊後、1990年代半ばに生命保険業界で起きている。

 5.5%だった予定利率が切り下げられ、生保各社は金利の低い新型保険を売り出し、「お宝保険」の解約を勧めた。

「顧客を欺く営業」と批判を受け、生保業界は総ざんげを迫られた。

 その時、簡保は蚊帳の外で「顧客騙し」に加わらなかった。目先の収益のためズルすることは官業としてできなかった。

「異常な低金利が長期にわたって続く時、現場で必ずおかしなことが起こる」

 日本銀行総裁だった故三重野康氏の言葉である。副総裁として5度にわたる公定歩合の引き下げに関与し、日本をバブル経済に突入させた責任者の一人でもある。

 あの頃は好景気で激烈な融資競争が起き、銀行員が「イケイケ」とばかり突っ走った。今はデフレ退治のアベノミクスが叫ばれ、「異次元の金融緩和」が始まって6年。金融機関は生き残るため、お客を食い物にするということか。

 現場で起きた愚行を「手数料稼ぎ」「ノルマに追われた暴走」と非難することは容易だが、彼らを追い詰めたのは、過剰な収益目標であり、株価至上主義の経営である。

 郵政各社の経営者の責任は重いが、その経営者を縛っているのが国策だ。

 郵政民営化とアベノミクスによる超低金利。2つの国策が絡み合って19万人の郵政職場のモラルを崩壊させた。

(デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員 山田厚史)