マツダ「SKYACTIV-X」、あえて内燃機関に執着する“逆張り”の勝算

脇役扱いされてきた「エンジン」の重要性を見直す「CASEの幻想 エンジンの逆襲」特集の第3回――。自動車メーカーの中で最もエンジン開発に集中しているといえるのがマツダだ。他社のエンジンがモーター走行のサポート役になりつつある中、マツダのエンジンはあくまで車の主役なのだ。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

 「持たざる者の遠ぼえ」。ハイブリッド車(HV)が本格的に急速に普及した2000年代、HVに背を向け、エンジンそのものの性能を追求するマツダの方針はそう酷評された。

 だが、世界シェア2%の自動車メーカーであるマツダがトヨタ自動車などとHVの開発競争をやっても勝てるわけがない。マツダは電動化の時代に、腹をくくってエンジンの性能向上に懸けたのだ。

 こうして06年に開発が始まったのが、「SKYACTIV TECHNOLOGY(スカイアクティブ・テクノロジー)」だ。この開発でマツダは、ガソリンを燃やすエンジン内の燃焼室を高圧にすることで燃費の改善を目指した。

 一般に気筒内のピストンの上下運動で燃焼室の空気がどれだけ圧縮されるかを示す「圧縮比」が高いほどエンジンが生み出す力(ピストンを押す爆発力)は大きくなり、燃費は改善する。

 圧縮比を高めることは燃費改良の王道だったが、「もう伸びしろは少ない」と思われていたのでチャレンジする自動車メーカーはなかった。圧縮比を上げるとノッキングと呼ばれる異常燃焼が起きやすくなるためだ。それでも、マツダがあえてチャレンジしたのは、少数精鋭で開発競争に勝つには、「ボウリングの1番ピン」を倒すことに集中する必要があったからだった。

 2000年代前半、マツダのエンジン技術者の多くは米フォード・モーターとの共同開発チームに異動していて、先進的な研究を行う部署には30人ほどしか残っていなかった。他社の中には同様の部署で1000人を擁するメーカーもあったという。

 研究開発を下支えする経営も盤石ではなかった。マツダは11年度まで4期連続の最終赤字に沈み、本社の敷地を一部売却するところまで追い詰められていた。こうした中、エンジンに懸けるマツダの一点突破戦略を疑問視する業界関係者も多かった。

 だが、とにもかくにもマツダは圧縮比14という世界一の高圧縮比エンジンを搭載した「デミオ」を11年に発売した。環境に優しい車といえばHVが当たり前の時代にガソリン車で30km/lの燃費(10・15モード)を実現して世を驚かせた。

 ここまでが、全部で3段階あるマツダのエンジン開発のロードマップの第1ステップである。

 その後、SKYACTIVの生みの親で、同社の名物技術者の人見光夫からバトンを受け継ぎ、第2ステップにチャレンジしたのが中井英二だ。