脇役扱いされてきた「エンジン」の重要性を見直す「CASEの幻想 エンジンの逆襲」特集の第5回(最終回)――。自動車メーカーの経営を左右する環境規制をクリアするためには内燃機関の改善が欠かせない。規制値の達成は、ハイブリッド車(HV)と電気自動車(EV)の両面作戦でないと困難なのだ。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
今年6月、「トヨタ自動車が電動化の目標を5年前倒しする」というニュースが駆け巡った。このトヨタの発表は2020年に発売するEVのデザインのお披露目とセットだったので、トヨタがEVシフトを鮮明にするかのような印象を与えたが、実態はそうではない。
計画が5年早まるのは電動車(HV、プラグインハイブリッド車〈PHV〉、燃料電池車〈FCV〉、EV)の販売目標の達成年であって、「前倒しになるかなりの部分がHVだ」(副社長の寺師茂樹)。つまりエンジンを搭載したHVの販売がトヨタの電動化をけん引しているのだ。
そもそもトヨタが18年に販売した電動車163万台の97.0%がHVで、PHVは2.9%、EVは0%だ。トヨタのEVの発売・販売のスケジュールが前倒しされたわけではない。
HVの販売は19年も好調で前年比10.4%増の180万台を見込む。独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル不正問題後の欧州市場では、それまで環境負荷低減の主軸だったディーゼルエンジンの失速の隙を突いてトヨタのHVの販売が伸びている。
別の追い風も吹き始めた。中国政府が自動車の環境規制において、HVの扱いを優遇する方向で検討を始めたのだ。
HVの技術開発や販売を巡る競争は、王者トヨタを主軸に展開されている。次の表を見てほしい。本特集で紹介した各メーカーの新型パワートレインが、燃費性能などでトヨタハイブリッドシステムに追い付いたように見える。
だが、HVを安く造る力は、HVの販売台数が累計1500万台に迫り、量産効果が出ているトヨタに一日の長がある(トヨタはHVの装備をガソリン車よりハイグレードにする傾向が強いため、HVシステムの金額は車の価格差より少ない額になる)。
世界初の量産HV「プリウス」を世に出したトヨタは、HVの先行者利益をさらに享受しようとしている。