セールスが目的でお邪魔した、よければ社長とお話しさせてもらいたいと伝えると、「社長はいませんが会長はおられます。でも会長もお忙しいから、あなたと会っている時間はないかもしれない」との返事。それでもぜひお願いしますとDさん。事務員の1人がため息をつきながら腰を上げ、奥の部屋に消えていった。

 やがて戻ってきて、Dさんをにらみながらこう言った。「会長がお会いになってくれるそうです。こんなことは珍しく、大変ありがたいことなので、くれぐれも失礼のないように」と。

「なんというか、カルト宗教のような印象を持った。女性の事務員2人が会長なる人物をあがめているようだったので。

 とはいえ、飛び込みをやっていて会長が話を聞いてくれるなんて機会はめったになかったから、会社への不信感より喜びと期待の方が大きかった」(Dさん)

 Dさんは部屋に通されて会長と相対した。会長はかなりの高齢で、歯がほとんどなく、何をしゃべっているかあまりわからなかった。しかし語気は鋭い。Dさんは懸命に相づちを打って会長の機嫌を取ろうとした。

「そのうち会長が『愛人はどうのこうの』という話を始めた。よくよく聞くと私に『愛人になれ』と言っているらしかった。『そういう考え方があるのはいいと思いますが、私は誰の愛人になるつもりもありません』と答えると、会長は怒り狂った。私のリスニングが正しければ『ふざけるな!』や『小娘!』とののしられたように思う。

 これはもうセールスの話は無理だと思って、会長の怒りが下火になった機を見計らって辞そうと、しばらく会長からお叱りを受けるがままにしていた。やがて会長が『お前は優しさが足りない!私が立とうとしているのに手を貸そうともしない!』といった旨のことを言っているのを聞いて、反射的に『あっすみません』と近寄ると、外見からは想像できないような力強さで引き寄せられ、お尻を両手でわしづかみにされた(笑)」

 今でこそ笑い飛ばせる余裕があるが、この時はDさんも必死である。