「要するに」は、パターンに当てはめるだけの最も浅い理解
さて、話を元に戻せば、この「要するに〇〇ってことでしょ」という聞き方には当の聞き手にとっても問題があります。なぜなら、過去に形成されたパターンに当てはめて短兵急に理解したつもりになってしまうことで、新たなものの見方を獲得したり、世界観を拡大したりする機会を制限してしまうことになるからです。
変化の激しい今日のような時代にあって、このような行動様式は学習を阻害するものであり、まさにオールドタイプのパラダイムと断じるしかありません。
私たちは、無意識レベルにおいて、心の中で「メンタルモデル」を形成します。メンタルモデルというのは、私たち一人一人が心の中に持っている「世界を見る枠組み」のことです。そして、現実の外的世界から五感を通じて知覚した情報は、そのメンタルモデルで理解できる形にフィルタリング・歪曲された上で受け取られます。
「要するに○○でしょ」というまとめ方は、相手から聞いた話を自分の持っているメンタルモデルに当てはめて理解しているに過ぎません。しかし、そのような聞き方ばかりしていては、「自分が変わる」契機は得られません。
MITのオットー・シャーマーが提唱した「U理論」においては、人とのコミュニケーションにおける聞き方の深さに関して、4つのレベルがあると説明されています。
【レベル1】自分の枠内の視点で考える
新しい情報を過去の思い込みの中に流し込む。将来が過去の延長上にあれば有効だが、そうでない場合、状況は壊滅的に悪化する
【レベル2】視点が自分と周辺の境界にある
事実を客観的に認識できる。未来が過去の延長上にある場合は有効だが、そうでない場合は本質的な問題にたどり着けず対症療法のモグラ叩きとなる
【レベル3】自分の外に視点がある
顧客の感情を、顧客が日常使っている言葉で表現できるほど一体化する。相手とビジネス取引以上の関係を築ける
【レベル4】自由な視点
何か大きなものとつながった感覚を得る。理論の積み上げではなく、今まで生きてきた体験、知識が全部つながるような知覚をする
これら4段階のコミュニケーションレベルのうち、「要するに○○でしょ」とまとめるというのは、最も浅い聞き方である「【レベル1】ダウンローディング」に過ぎないということがわかります。
このような聞き方では、聞き手はこれまでの枠組みから脱する機会を得ることができません。より深いコミュニケーションによって、相手との対話から深い気づきや創造的な発見・生成を起こすには、「要するに◯◯だ」とパターン認識し、自分の知っている過去のデータと照合することは戒めないといけないのです。
容易に「わかる」ことは、過去の知覚の枠組みを累積的に補強するだけの効果しかありません。本当に自分が変わり、成長するためには、安易に「わかった」と思わず、相手の言っていることを傾聴し、共感することが必要になります。