――筆者のジェイソン・ファーマン氏はハーバード大学ケネディスクール教授。2013年から17年まで大統領経済諮問委員会(CEA)委員長
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ドナルド・トランプ米大統領の対中政策は失敗しつつある。トランプ氏の強硬的なアプローチは中国側の大幅な譲歩を引き出すには至っていないが、米経済に及ぼす打撃は拡大しつつある。現在、中国は世界各国とのつながりを強めているが、米国は一段と孤立化している。中国の不公正で国家統制主義的な経済慣行に効果的に対抗するためには、米国は手法を変えなくてはならない。内容を絞り込んだ要求を実現するため、同盟諸国や国際機関を味方につけるべきだ。
対中関税は、短期的に米経済に明確な打撃を与えている。2019年第2四半期には企業の設備投資の減少として影響が現れており、今年の国内総生産(GDP)の伸び率を約0.5ポイント押し下げる可能性が大きい。これは必ずしもトランプ氏の政策を非難するものではない。労働者がストに踏み切る際には短期的に収入が減ることを覚悟している。しかし彼らは、その後の長期間の賃上げというより大きな成果によって、損失分を取り戻せることを期待している。
だが、株式市場の動きから見る限り、短期的損失を埋め合わせるような譲歩を中国側が示す可能性を投資家らは予想していない。8月1日にトランプ大統領が新たな対中関税を発表した後の株価の下落は、現在の評価基準ではこの戦略がマイナスに働くことを示唆している。
中国の経済成長は鈍化しているが、その大半が米国の貿易政策によるものだとは言えない。成長鈍化の大部分は、少子高齢化が進んで生産性の伸びが鈍化しているにもかかわらず、短期投資と国有企業の力で成長を支えようとする中国政府の方向性の限界を反映したものだ。