『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』佐宗邦威氏の対談シリーズも、ついに第10弾となる。今回の対談パートナーは、アーティストの熟達過程や創作活動における認知プロセスなどを専門的に研究している東京大学大学院の岡田猛教授だ。
カイゼンや戦略がとかく重視されがちなビジネスの世界に、個人の内発的な「妄想」をベースにした思考アプローチを持ち込む佐宗氏だが、こうした思考法のモデルになっているのは、ほかでもなく「アーティスト」のそれである。VUCAと言われる変化の時代に、われわれがアーティストに学べることとは? 両氏の対談を全3回にわたってお届けする(構成:高関進 第1回)。

アーティストの「仕事のやり方」に何を学ぶべきか

研究・学びそれ自体も「アート」的であるべきでは?

佐宗邦威(以下、佐宗) 『直感と論理をつなぐ思考法』では、個人の内発的な「妄想」なり「ビジョン」なりを起点にして、具体的なアイデアを練り上げていく「VISION DRIVEN」な思考法について論じました。

このとき僕が具体的に意識していたのは、いわゆるアーティストの方たちのアプローチです。アーティストが制作を行うプロセスというのは、基本的にはマーケットとか問題解決とかいった外部環境からは独立しているはずですから、VISION DRIVENそのものです。そのなかで、岡田先生が以前に執筆された研究論文*にも触れさせていただきました。

岡田先生は「アーティストの熟達過程」などに関する研究をされていますが、いよいよ東京大学でもアート関係の共同研究プログラムがはじまったそうですね。

* 岡田猛, 横地早和子, 難波久美子, 石橋健太郎, & 植田一博. (2007). 現代美術の創作における「ずらし」のプロセスと創作ビジョン. 認知科学, 14(3), 303-321.
アーティストの「仕事のやり方」に何を学ぶべきか岡田 猛(おかだ・たけし)
東京大学大学院 教育学研究科 教授(学際情報学府兼担)
カーネギーメロン大学大学院博士課程修了(Ph.D. in Psychology)。ピッツバーグ大学学習開発研究センター博士研究員、名古屋大学大学院 発達科学研究科 助教授、東京大学大学院 教育学研究科 准教授を経て、2007年より現職。創造的認知プロセス、とくに芸術創作の場において、アイデアが生まれ、形になっていくプロセスや、その教育的支援について研究を進めている。編著に『触発するミュージアム――文化的公共空間の新しい可能性を求めて』(あいり出版)など。

岡田猛(以下、岡田) 東京大学芸術創造連携研究機構ですね。人文社会・教育・情報・工学・数理科学・医学など、あらゆる分野が連携しながら、アート関係の共同研究を行っています。実技授業も演劇、ダンス、音楽、美術、アニメーションなど10科目あり、経済学部や文学部の学生の中にも、10科目全部履修したいと言っている強者もいます。

講師の方も、舞踏をベースにしたダンス「Eiko & Koma」の尾竹永子さんなど、表現者として優れた方に来ていただいています。本物のアーティストに触れることで、学生たちも大いに刺激を受けているようです。

佐宗 東京大学でそのようなユニークなプログラムをはじめられたのは、なぜなのでしょう?

岡田 我々はアーティストの研究をしているわけですが、一方で、研究や教育の場としてはやはりまだガチガチなところがあります。研究対象であるアーティストたちが前提を覆すことを楽しんでいるのだから、自分たちもそうした要素を研究・教育に取り入れないでどうするんだという思いがありました。アーティストの「面白がり方」の幅は広く、それは研究にも必要だと思いました。

佐宗 研究者もある意味では、アーティスト的であるべきだということですね。

岡田 ええ、そうなんです。もう1つは、先ほども名前を挙げた尾竹永子さんと知り合えたことがきっかけですね。彼女はアメリカのウェズリアン大学で「デリシャス・ムーブメント(おいしい動き)」という授業をずっとやっていらっしゃいます。東大でも3回ほど集中講義をしていただいたんですが、すごく面白かったんです。普通の授業は聞いて理解して「勉強になったなあ」でおしまいですが、この授業を受けた学生たちは、明らかに「自分事」として内容を捉えていたんです。

佐宗 デリシャス・ムーブメント! 興味深いですね。