試行錯誤の末の創造は自信になる

佐宗 僕はワークショップなどの場で、ピカソが絵を製作するときのプロセス動画を参加者に見せることがあります。そうすると、多くの人は「表現」に対してある種の完璧主義にとらわれていますから、会場からは「最初から完成形じゃなくていいんですね! 安心しました」という反応が返ってきます。

一方で思うのが、「最初から完成形じゃなくていい」ということは、「どこが完成形なのかも自分で決めないといけない」ということでもありますよね。これはビジネスの世界ではあまり経験しづらいことではないかと思います。たいていは「落としどころ」とか「納期」が決まっている仕事がほとんどだからです。それって、ある意味では「楽」だったりもするんですよね。

岡田 なるほど、そういう見方もできますね。

佐宗 逆に、アートは「落としどころ」がない。「これで完成!」という決まったゴールがない。だからこそアーティストはきっと絶望に浸る時間があるのではないかなと(笑)。

一般のビジネスマン向けのワークショップなどでも、最後にはなんらかの「作品」をつくってもらうことがあるんですが、答えが見えない怖さのなかでいろいろと手を動かすというのは、落としどころのある仕事を遅滞なく効率的にこなすのとは真逆のプロセスなんですよね。

アーティストの「仕事のやり方」に何を学ぶべきか

彼らも非常に悩みながらアウトプットするんですけれど、ある程度のプレッシャーをかけて考えてもらったりすると、最後に意外とすごいものが出てくることがあります。そして、当初イメージしていたのとは違ったかたちでブレイクスルーが起こると、これが本人にとっては大きな自信になる。

岡田 僕は企業に勤めたことがなくて、これまで研究ばっかりですから、ずっと「落としどころ」がない世界にいると言えるかもしれません(笑)。

佐宗 その通りだと思います。研究者も新しいテーマをどう見つけるかという点で、ものすごくアーティストに近いと思います。研究もアートも、最初に手を動かし始めるときには、何か具体的なゴールが見えているわけではなく、「自分でも何をやっているのかよくわからない」という状態がほとんどではないかと。

マーケティングの世界では、「売上を昨対で10%伸ばす」というゴール(=落としどころ)が決まっていて、そのための最適解を探ることに主眼が置かれます。このときには、上司に対しても顧客に対しても、「自分でも何をやっているのかよくわかりません」なんて言っているわけにはいかない。必ず説明が求められます。

ですが、新しいコンセプトの商品を開発するときには、もはやこういうやり方だけはもう通用しません。むしろ、アートや研究の分野と同じように、「落としどころ」が見えまま、ひとまず前に進んでみるアプローチが有効です。周囲からは「いったい何をやっているんだ!」と言われるかもしれませんが、説明できないことの怖さと戦っていくしかない。これからの時代、新しいものを生み出すときの「怖さ」から逃げず、最後までしっかりと向き合っていいものを生み出すという経験は、その後の自信を育むうえでも非常に大きいと思いますね。

(第2回に続く)