4700万円で落札されたナイキのシューズは
アートなのか、デザインなのか

平野啓一郎さん平野啓一郎さん

平野 最近のアートを巡る定義においても、「アートとして扱われるのがアート」といったような自己反復的な定義も見られます。
個人的に交流のある横尾忠則さんは、前半はグラフィックデザイナー、後半はアーティストですが、横尾さんのポスター展を見ていると、もともと芸術に広告性があったように思うんですよね。みんな、「広告の芸術性」みたいなことを議論するけれど、実はその逆で。

美術の歴史ということでいうと、僕には近代以前と近代は連続しているように見えるけれども、日本ではおそらくそのあたりの断絶みたいなものを、「美術」と「アート」で使い分けている感じがします。英語圏では、アートはアートとして、連続して美術史が語られていますが。

水野 明確にわかりやすいと思って話し始めている美術とアート、アートとデザインの話ですら、こんなに複雑。人によっても捉え方が違うからおもしろいですね。

平野 正直今、デザイン業界の人たちも混乱しているんじゃないかと思います。アートとデザインは何の関係もないと言い切る人もいるし……。それは明らかに言いすぎだけど、全部一緒にしてしまうと違いも見えてこないから、どこまでがアートなのか、デザインなのという境目には関心があります。

水野 先日、ナイキが1972年に製作したシューズが4700万円くらいで落札されたというニュースがありました。それはアートなのか、デザインなのかっていう……。

平野 それはかなりの骨董価値が入っていますね(笑)。

水野 おそらく、デザインから生まれて、アート化されてきたものなんじゃないかと思うんですよね。たとえばルーヴル美術館には、遺跡や遺跡からの出土品もたくさん展示されていますよね。じゃあ、遺跡とアートの違いって何なのかというと、「分断されているとは断言できないけど、ちょっとくらい違う」といったところではないでしょうか。