美術とデザインの境界線

水野学さん水野学(みずの・まなぶ)
クリエイティブディレクター/クリエイティブコンサルタント/good design company 代表
1972年 東京生まれ。1996年 多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。 1998年 good design company 設立。ゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに手がける。
著書に『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(ダイヤモンド社)、『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(誠文堂新光社)、『センスは知識からはじまる』『アウトプットのスイッチ』『アイデアの接着剤』(すべて朝日新聞出版)などがある。初の作品集『アイデア特別編集 good design company 1998-2018』(誠文堂新光社)も発売中。

平野 美術とデザインを、厳密に分ける人もいれば、重ねているような人もいる。水野さんはどのように考えていますか?

水野 最初に、アートとは何なのか、という話があると思います。
たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチは、今でいえば完全にクリエイティブディレクターなんですね。ラファエロ・サンティやサンドロ・ボッチチェリなんかも、今でいうと選挙ポスターのデザイナー、布教のための広告宣伝活動に使われていたんです。
当時は教会の像や壁画も全部、ブランディングですから。つまり、ルーヴル美術館に飾られている多くの絵画、彫刻物は、もともとは美術館に飾られることを目的としていなかったものなんです。

一方で、ポンピドゥー(パリにある国立近代美術館)やMoMA(ニューヨーク近代美術館)に展示されるものは、必ずしもそうとは言い切れないけども、基本的には美術館に飾られることや、オークションなどで転売されることを目標としている作品が多い。

もちろん反戦目的や宗教目的のものもありますが、現代アートと呼ばれるものと、アートというものは、全く違うものだと思っています。
僕自身はどちらかというと、「現代アート以前のアートみたいなこと」をしていると思っています。クロード・モネやエドゥアール・マネよりも前の人たちと同じようなことをしているんじゃないかと気づいた時に、デザイナーというのもおもしろい職業なんじゃないかな、と思いました。

平野 それに気づいたのはいつ頃ですか?

水野 こうやって説明できるようになったのは最近ですが、アートとデザインはどう違うのかという問いは「美大あるある」で、ずっと考えているテーマでした。

アートというのは、基本的には骨董です。つまり、何か別の目的で作られたものを誰かが勝手に美術館などに飾り始めたということなんですけど、現代アートは、できたその日から価値が付く。アートになる以前のものをデザインが担い、それが骨董化してアートになっていった。古美術と現代アートは連続しているようで、実は別物なんじゃないかっていうのが僕の考え方です。

平野 現代アートはもともと美術館に展示されることを目的としているという話はその通りですね。