いま人材育成の現場で最もよく使われているキーワードが「経験学習」だ。なぜ、マネジャーは部下の「経験から学ぶ力」を高めることが必要なのか。どうすれば部下の成長を効果的に支援できるのか。日本における経験学習研究の第一人者・松尾睦氏の最新刊『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』より、内容の一部を公開する。

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目に見える強みと見えない強み

 部下のポテンシャルや強みを把握することは簡単ではありません。このときに必要なことは、部下の強みを「探る」ことです。

 強み中心のアプローチ研究では、図表3-2に示したように、目に見える「顕在的な強み(実現された強み)」と、個人の中に眠っている「潜在的な強み(実現していない強み)」を区別しています。

 ベストセラー『ストレングス・ファインダー2.0』の著者トム・ラスは、潜在的な強みを「才能(talent)」と呼び、この才能を開花させて、強みを顕在化させるためには、何らかの指導・訓練(投資)が必要になると述べています。その役割の一部を担っているのが、上司です。

 育て上手のマネジャーの多くは、たとえ問題を抱える部下であっても、それぞれの「強み」「個性」「ポテンシャル」を探していました。

 飲料メーカー人事部のマネジャーは次のように語っています。

「『美点凝視』という言葉がありますね。出来の悪い部下であっても、その人の美点や強みを本気で探すと見えてくるものです。それを言葉で伝えて、美点が生きてくる仕事を任せると部下は成長します」

「私の部下には強みが見当たりません」と言うマネジャーは「美点凝視」していない可能性があります。弱点や問題点は置いておいて、まず良い面、優れている面、普通よりも少しできることを発見するために、部下の行動を凝視することが重要になります。

 この点について、小売店舗のマネジャーは次のようにコメントしています。

「仕事ができない場合でも『店内放送をさせてみたら上手だった』という人間もいます。その人にしかできない何かを見つけてあげて、それを生かせる仕事を任せるようにしています」

『はじめての課長の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者、酒井穣氏も、次のように述べています。

「誰でも、常にその人が持っている能力を最大限に発揮しているわけではありません。逆に言うなら、ほんの少しでも部下の中に眠っている本来の力を解放してやることができれば、部署の業績を上げることができるはずです」