いま人材育成の現場で最もよく使われているキーワードが「経験学習」だ。なぜ、マネジャーは部下の「経験から学ぶ力」を高めることが必要なのか。どうすれば部下の成長を効果的に支援できるのか。日本における経験学習研究の第一人者・松尾睦氏の最新刊『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』より、内容の一部を公開する。

弱みに目を向けるだけでは、部下は成長できないPhoto: Adobe Stock

なぜ「強みを引き出す」ことが重要なのか

 ここで、なぜ「強みを引き出す」ことが重要になるかについて考えたいと思います。

 実は、育て上手のマネジャー調査を開始した段階では、「強み」に注目していたわけではありませんでした。

 しかし、さまざまな調査の分析結果を見ると、必ず「強みを引き出す」行動が出てきます。そこで、「強みの重要性」に関する学術的な背景を調べてみました。

 個人レベル、集団・組織レベルの違いはありますが、「強み」に着目する大切さは、次のように、心理学、経営学、哲学の観点から説明できます。

(1)強みを生かすことで、人は「ポジティブな結果」を生み出す(心理学)
(2)部下の強みを引き出すことが「マネジャーの役割」である(経営学)
(3)人材の強みを生かし、社会に貢献することが「善」につながる(哲学)

 第1に、ポジティブ心理学と呼ばれる研究では、個人の強みを生かしたほうが、「ウェルビーイング(身体的・精神的に良好な状態)やパフォーマンス」が高まることがわかっています。

 第2に、経営の実務家に強い影響力を持つピーター・ドラッカーは、人材の強みを引き出すことが「マネジャーの役割」であると主張しています。

 第3に、哲学者の西田幾多郎は、人が持つ「その人ならではの個性」を社会に役立てることこそが、善につながると述べています。

 これらの考え方について、少し紙面を割いて解説しましょう。