強みを見つける方法
強みは水面下に隠れている場合もあります。隠れている強みを見つける方法の1つが、まず何かの仕事を任せてみて、その様子を見るというやり方です。住宅設備機器メーカー営業企画部のマネジャーは次のようなエピソードを語ってくれました。
「営業部門で働いていた53歳の方が、病気で1年間休職後に営業企画部に異動してきました。柔らかい人柄で温厚なタイプです。それまで分析系の仕事はしたことがなかったようでしたが、新しい業務でも素直に吸収してくれそうな印象を受けました。
まずエクセルを使った簡単な分析作業をお願いして『この調子だったらできそうだな』と感じたので、もう少し高度な『営業情報を整理・分析して営業担当者にフィードバックする仕事』を任せることにしました。『うちの部署でパソコン・スキルを身につけておくと、あとあと会社でも重宝されますよ』と動機づけたところ、やる気を見せました。
初めは不安そうでしたが、手本を見せながら教えて励ましたところ、自分でもエクセルの検定を取得し、周囲のメンバーに教えてあげられるまでになりました。『できるようになりましたね』『すごいですね』と声をかけて、部内で『分析スキルの習得プロセスを共有するプロジェクト』を立ち上げ、そのリーダーを任せています」
このように「試しに任せて、その様子を見る」ことで、眠っていた強みや素養が引き出され、開発されることもあります。
次に紹介する、事務機器メーカー技術部のマネジャーは、ワン・オン・ワン・ミーティング(1対1の面談)の場を活用し、雑談を通して部下の強みを見つけていました。
「私は部下と週に1回、30分ほどワン・オン・ワン・ミーティングをしていますが、雑談を重視しています。なぜなら、雑談の中に、その人の強みが見えることが多いからです。
例えば、40代後半の女性の部下がいますが、彼女にはスペシャリスト的な仕事を任せていました。小学生の子どもがいるお母さんなので、午前9時から午後6時までしか働けません。ミーティングで雑談をしていたら、地域の子ども会の会長を任されたこと、前任者から引き継ぎをしていること、現在は子ども会の問題解決をしているという話を聞きました。
その内容を会社に置き換えてみると、かなり高度なことをしているのです。それまで、彼女にそのようなことができるとは思っていなかったので、早速、若手の育成やスケジュール管理を任せることにしました。ただし、働ける時間が限定されているので、まずは彼女の業務を改善し、効率化して時間を確保し、新規業務に取り組める環境をつくってから仕事を任せました。
その後、彼女は『今の仕事は若い人に任せて、新しいことをやりたい』と、自分で工数管理をして時間を捻出するようになりました」
この事例では、部下がもともと持っていた能力が隠れていたことがわかります。図表3-2における「使われていない強み」です。そうした強みが、部下との雑談を通して明らかになったのです。プライベートの生活の中に、個人の強みが表れやすいといえるでしょう。
なお、一見して、特に強みが見られない部下に対しては、どのように対応すればよいのでしょうか。自動車関連会社・技術部のマネジャーは次のように語っています。
「定年間近の58~59歳の部下がいました。これといって目立った強みがあるわけではなかったので、『若手の教育係になってください』と頼み、自分の経験や知識を若手に教えてもらいました。そのとき、ノウハウが残るように紙に落としてもらい、マニュアルもつくってもらいました。プロジェクトでも、若手の指南役になってもらったところ、意外と教えるのが上手く、彼のモチベーションが上がりましたね。特別なスキルがない人でも、基礎的な知識・スキルであれば、教育係ができるはずです」
このように、平均的、標準的な仕事ができれば、その能力も1つの「強み」となることがわかります。本事例のように、任せてみたら「意外と教えるのが上手かった」ということもあるかもしれません。
ただし、中途採用の社員や異動してきたばかりの社員に関しては、どのような能力を持っているかがわからない状況が多いのも事実です。
そんなときには、過去にどのような業務を経験し、いかなる知識・スキルを獲得したかについて、時系列でまとめた「仕事経験レビュー」を書いてもらえば、その人が持っている強みのヒントが得られるはずです。