強みのレベルとタイプ

 部下や後輩の強みを見極める際、「どこを見ていいかわからない」という人もいるでしょう。何らかのリストがあったほうが、強みを見つけやすいこともたしかです。

 図表3-3は、これまでの研究に基づいて、強みのレベルとタイプを整理したものです。

部下の中に眠っている「潜在的な強み」を探る方法

 上段にある強みは、「業務を遂行する能力」に関係するものであり、情報を収集・分析したり、意思決定する「コンセプチュアル・スキル」、コミュニケーションや育成に関する「ヒューマン・スキル」、専門的な知識や技能に関する「テクニカル・スキル」の3タイプに分かれます。

 中段にある強みは、「資質や才能」に関するもので、業務遂行能力の基盤となります。カッコ内の例を見てもわかるように、人によって異なる資質やタイプであり、これが磨かれることによって、業務遂行能力になるといえます。

 例えば、戦略思考力であっても、新しい見方を提供することが得意な人もいれば(着想)、ものごとの理由や原因を考えるのが得意な人もいます(分析思考)。

 上段と中段を組み合わせることで、業務上の強みを発見しやすくなります。

 下段にある強みは、「特性や性格」に関するもので、個人の持つ「人間力」に当たります。

 図表3-3を見てもわかるように、独創性、誠実さ、親切、寛大さ、審美心など、持って生まれた性格や、家庭環境によって育まれた性質です。上段や中段の強みだけではとらえ切れない、人間の基本的性質を把握する際に役立ちます。

 前節で述べたように、ここで説明した強みが、見える形で顕在化しているケースと、その人の奥底で眠っている潜在的なものであるケースがあるという点に注意しなければなりません。

 部下や後輩が持つ、目に見えない強みを見極め、それを開花させるように支援することが大切になります。

 ここで自動車関連メーカー・人事部のマネジャーが、図表3-3を使って、中堅の部下の強みをどのように分析しているかを見てみましょう。

「30代後半の部下は職場の中心的存在です。業務遂行能力の点から見ると、彼はメンバーへの気配りや心配りができていますし、職場を盛り上げたり、他部署に対する依頼などもしっかりやってくれているので、ヒューマン・スキルに強みがあります。
 さらに、前職において生産管理の仕事をしていたことから、スケジュール管理や納期管理が得意であり、テクニカル・スキルが高いといえます。
 これから伸ばしてほしい力は、戦略的にものを考えるコンセプチュアル・スキルですね。
 資質・才能の面から見ると、調和性(関係構築力)、コミュニケーション(影響力)、アレンジ(実行力)が優れていますし、特性・性格の点では、好奇心、勤勉、誠実さ、謙虚さに強みがあります。
 どちらかというと彼は、何かを改善する業務が得意でしたが、こうした強みをテコにして、0から1を創り出すような力を伸ばしてほしいと思います。彼には十分ポテンシャルがあります。そのために、これまでに当社の人事部で手がけたことがなかった研修プログラムを考えてもらっています」

 このように、業務遂行能力、資質・才能、特性・性格の観点から、すでに表に表れている強みや、これから伸ばすべき「潜在的な強み」を把握することが大事です。

 本書『経験学習リーダーシップ』の付録Aには、詳しい「強みのリスト」を載せておきました。上司が1人で判断するだけでなく、部下の自己評価と上司の評価をすり合わせたり、職場内でメンバー同士の強みを評価し合うことも有効です。