「編集された書棚」で
偶然の出合いが広がる書店に

 直取引に関していえば、すべての版元が、街の一書店との直取引に応じてくれるわけではない。誠光社のウェブサイトを見ると、直取引に応じる版元として、河出書房新社や新潮社、筑摩書房や中央公論新社、文藝春秋など80社近い社名が記されており、それ以外にも全部で200社ほどに上るという。しかし、日本にある3000社を超える版元のすべてをカバーすることはできない。

「直取引に応じてもらえない版元さんの本は、取次の子どもの文化普及協会や、トランスビューを経由して取り寄せています」

 堀部はそう言うと、前日に発注した子どもの文化普及協会からの納品書を見せてくれた。例えば岩波書店の場合、岩波と取次を合わせた取り分が80%以上。書店の取り分は20%を切る。取材で卸正味の書いた納品書を見せてくれる書店は、めったにない。何事も隠し事がないのだ。

 堀部が目指すのは、アマゾンのような書名を検索して目指す書籍だけを購入するインデックス型の書店ではなく、編集された書棚を作ることで、偶然の出合いが広がる書店だ。料理本の棚に、レシピ本に交じって、漫画『孤独のグルメ」や池波正太郎の書いた食に関するエッセーを挟み込む。レシピ本を探して来店した客が、ついでに漫画や池波のエッセーも買っていくような書店だ。

 本を中心とした書棚には、アクセントをつけるため、わずかながら雑誌や古本も並べられている。書店を歩き回ることで、顧客にとって偶然の出合いがあり、それが書店にとっての売り上げにつながるような店舗づくりだ。

 誠光社の立ち上げから4年、経営は軌道に乗ってきた。週に2、3回は、店内で著者のトークイベントなども行う。堀部の作る棚が気に入った常連客も増えてきた。もう30年以上も、長い出版不況のトンネルに入った業界において、堀部の孤軍奮闘は、明るいニュースであるのは間違いない。

 帰り際に、私は3冊の本を購入した。『塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性』(岩波現代文庫)と『フォークナー、ミシシッピ』(インスクリプト)、『ナチスの楽園』(新潮社)――という硬派なラインアップ。購入金額は7754円、そのうち30%が誠光社の取り分とするなら、2326円が粗利となる。

 ちょっと背伸びして買った3冊全部を私が読み終えるには、相当時間がかかりそうだ。

※記事の筆者が11月6日(水曜日)に誠光社でトークイベントを開催します。
詳しくはこちらのページをご参照ください。