工事の技術面よりも
渉外に課題

「リニア中央新幹線関連の工事は、進み具合は遅れているけど、技術的な問題はあまりない」と工事に関係するゼネコンの幹部は言う。山岳トンネルの土被りの深さや営業中の新幹線や在来線に近接する工事を行うため失敗が許されないなど、工事の難易度の高さがよく話題に上るが、開業スケジュールを脅かす原因になりかねないのはそこではない。渉外関係に懸念がある。

 代表的なのは静岡の水問題。リニアが通る山岳トンネルの掘削により、静岡県内に流れる大井川水系の河川水量が減るとして、川勝平太静岡県知事が水の全量を河に戻すようJR東海に求めており、合意するまで静岡県内では工事を始められない。

 他にも懸念はある。山岳トンネル工事では、リニアが通る地下深くの本線トンネルまで、地表から斜めに掘った坑道が要る。この斜坑を使って建設機械などの工事車両が出入りしたり、湧水をくみ上げる排水ポンプ、電線、コンクリートなどの資材を運んだりする。

 地上部分の森林の大半は、農林水産大臣または都道府県知事によって指定される保安林となっているため、保安林の指定を解除する行政手続きが必要だ。保安林解除には、申請開始から1年程度の時間が掛かる。この申請の動き出しが遅く、手続きが予定を押してしまい、ゼネコンが頭を悩ます工区があるのだ。

 工事関係者は、「お客さんのことを悪く言いたくないけれど、JR東海は東海道新幹線以来、新幹線工事の新設経験がない。だから本体工事に取り掛かる前の段取りが悪かった」と明かす。

 保安林解除申請は事業者がゼネコンに工事を発注する前に申請しておくべきところ。それをゼネコンに丸投げしてきたため、すぐに斜坑を掘る工事に取り掛かれず、現場は混乱。やむなく待機したり、他の工程を先に回したりしている。

 また、トンネルを掘った際に出る大量の土(残土)の置き場がほとんど決まっていない。長野県を例に挙げると、トンネル工事で発生する残土は950万立方メートル。公共事業での活用を想定するものの、残土の大半の受け入れが決まっていない。受け入れが決まっている大鹿村でさえ、その量はわずか10万5000立方メートルだ。

 約100万立方メートルを受け入れる有力な候補地になっているのは長野県南部にある下條村。村は道の駅とその周辺の整備に残土を使う計画を立てている。計画地の下流に人家はなく、仮に土砂崩れが起きたとしても人命被害に及ぶ可能性は低い。ただし、計画地は活断層の地形上にある。

 長野県駅予定地から天竜川をはさんで北東にある豊丘村の元村議・唐澤啓六氏は「豊岡村でも16年や17年に計画があったが、住民の反対で中止になった。県内では下條村以外の残土受け入れ候補地のほとんどが『谷埋め盛り土』で、とても危険」と語る。谷を残土で埋めて均すと、一見、土地活用がしやすくなるように感じるが、大雨や地震が起きた時に盛り上げた残土が下滑りするリスクがあるというのだ。

 用地買収も思うように進んでいない。工事の遅れがさらに拡大する可能性がある。「ある県では、駅に係る土地に建つ大規模マンションを管理する高齢の管理組合長がしぶとい。同じような問題は他県でもある」(JR東海関係者)。

 27年の開通に向けて、複数の関係者を巻き込みどこまでスケジュールを推し進めることができるか。近年、JR7社の中でも新幹線を持つJR北海道、JR東日本、JR西日本、JR九州では新幹線新設・延伸工事の実績を積んでいるため、渉外経験や技術者のノウハウも新しい。大手民鉄でも新線や相互直通運転のための工事経験を積んでいる。それに比べて、1959年に開通した東海道新幹線以来、路線新設工事の経験が乏しいJR東海では、特に渉外力が試されている。

(ダイヤモンド編集部 松野友美)

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