生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』が11月28日に発刊された。
養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」と各氏から絶賛されたその内容の一部を紹介します。
縄文杉は7000年以上生きる!?
日本の屋久島には、長生きで有名なスギがある。たとえば、縄文杉という名前がつけられた高さが25.3メートルの巨木は、樹齢7200年と推定されたこともあった。その樹齢は、直径(5.1メートル)から推定されたものだった。
しかし、樹木が太くなる速さは、同じ種でも個体によってかなり違う。そのため、この値は信頼できない。
縄文杉の中心部は空洞になっているが、その内側から採られた木材の年代を、放射性炭素を使って測定すると、2170年前という値が得られた。測定に使われた木材が取られた位置は、縄文杉の幹の正確な中心ではないので、実際に生まれた年はもう少し古いだろう。しかし、残念ながら、それ以上のことはわからない。
縄文杉の近くに、大王杉と呼ばれるスギがある。大王杉は縄文杉より小さい(高さ24.7メートル、直径3.5メートル)のだが、放射性炭素による年齢は3000年以上と推定されている。現在知られている限りでは、この大王杉が、日本で一番古い樹木である。
世界には、さらに古い植物がある。アメリカの標高2000~3000メートルという高地に生えているブリスルコーンパインだ。高さが3メートル、直径が2メートルほどの樹木で、巨木というほど大きくない。その中の一本はメトシェラと呼ばれており、2010年代初期の測定によると、年齢は4845年だった。
これまでは、プロメテウスと呼ばれているブリスルコーンパインが、もっとも長寿の植物といわれていた。プロメテウスは1964年に切り倒されてしまったが、その時点で4844歳だった。
今回の測定により、メトシェラがプロメテウスより1年長く生きていることがわかった。メトシェラはまだ生きているので、さらに長寿の記録を伸ばしていくだろう。
ただ、忘れてはならないことは、今まで述べてきた植物の寿命は、平均寿命ではないということだ。たとえば、スギの中でも、縄文杉や大王杉のように長く生きるスギは、滅多にいない。屋久島にも、発芽してから1~2年ほどのスギの苗が、たくさん生えている。
しかし、そのほとんどが、苗の段階で死んでしまう。いや、苗にすらなれずに死んでしまうスギだって、たくさんいるに違いない。ましてや、縄文杉や大王杉のように大きくなれるのは、せいぜい千年に数本だろう。だから、スギの平均寿命は、おそらく1年以下のはずだ。
そう考えれば、スギより私たちヒトの方が長生きなのである。