政府が2019年12月5日に閣議決定した経済対策の事業規模

安心と成長の未来を拓く総合経済対策出所:内閣府「『安心と成長の未来を拓く総合経済対策』について」

 政府は2019年12月に、台風などの災害復旧や、東京五輪後の経済活力の維持などを柱とした経済対策を打ち出した。事業規模は26兆円に上り、政府は、実質GDPを1.4%押し上げると試算している。

 もっとも、筆者を含め多くのエコノミストは、今回の経済対策が成長率の大幅な押し上げにつながるとはみていない。これは、確実にGDPの押し上げにつながる政府の支出金額が、それほど大きくないためだ。政府が発表する事業規模や財政支出は、民間への資金の貸し付けや民間企業の支出を含んでいるが、実際にどれだけ民間の支出を喚起できるか不透明な部分がある。これらを除くと、政府が直接的に支出する金額(国費)は、7.6兆円にとどまる。

 また、この7.6兆円の中には、規模を膨らませるため、20年度の本予算に計上される支出が含まれている。追加的な支出と見なすことができる19年度の補正予算は4.3兆円と、前年度の補正予算(3.9兆円)からの積み増しは限定的である。

 さらに、経済効果が大きいとされる公共投資も、建設業の人手不足がボトルネックとなり、予定された事業が計画通りにいかない可能性がある。建設業の人手不足はバブル期以来のものであり、受注したものの施工し切れない工事が積み上がっている。災害復旧や防災などの公共事業も、工期の長期化や予算の未消化が膨らむと予想されるため、大きな経済効果は見込み難い。

 そもそも、現在の経済状況を踏まえると、一時的な需要創出を目的とした経済対策が必要なのかも疑問だ。近年の低成長の原因は、需要不足ではなく、生産性の伸び悩みにある。確かに、今回の経済対策には、中小企業の生産性向上や、Scciety5.0の加速など、わが国の成長力の強化を目的とした施策が盛り込まれてはいる。しかし、経済対策の取りまとめを急いだため、本当に成長力の強化につながるのか疑わしい施策も多い。成長力の強化に向けては、民間のイノベーションを促進する規制緩和などを含め、中長期的な視点で政策を議論する必要がある。

(日本総合研究所 調査部 副主任研究員 村瀬拓人)