海野と話した後、店長が伝票整理のためバックルームに行くと、細川がいつも使っているリュックが転がっていた。

「こんなところに、邪魔だな」

 店長がリュックを脇に置こうと持ち上げたところ、ファスナーが開いていたため、中身がバサッと落ちてきた。

「あーあー、もう」

 店長が床に落ちた細川の私物をリュックに入れようとしたところ、見覚えのある通帳が落ちていた。

「これ…居酒屋で売上金と一緒に無くした店の通帳だよな…」

 店長は驚きと怒りで手が震えた。

「まさか、細川が盗んだんじゃ…」細川が「店長と2人で弁償する」と言い出したり、海野に高価なバッグを贈ったりしたことも、細川が180万円を手に入れていたと考えるとつじつまが合う。

「あいつが戻ったら問い詰めてみよう」

 店長は戸惑いながら、細川の戻りを待った。

盗難に対処しない社長に
怒った店長が退職

「お前、居酒屋で金と通帳の入った俺のバッグ、取っただろう?」

 店に戻ってきた細川を店長はバックルームに呼び出し、静かに詰め寄った。

「は?何を言っているんですか?」
「とぼけるなよ。さっきお前のリュックをどかそうと思ったら、中身が出てきた。そこに店の通帳があったんだよ」

 そう言って、店長は手にした通帳を細川に見せた。

 細川は、一瞬うろたえたように見えたが、声は冷静を保っていた。

「今朝、バックルームで落ちていたのを拾ったんですよ。後で渡そうと思っていたんです」と顔色も変えずに言った。

「うそつけ。何かおかしいと思ったんだ。自分から連帯責任で弁償するとか言い出すし。ももかにも随分高いバッグをあげたそうじゃないか」
「は?言いがかりはやめてもらえますか?」
「とにかく社長に報告する。今日はもう帰れ」と言って、店長は細川を帰した。

 店長の報告を受けた社長は、「まさか、あいつが?」と驚きを隠せなかった。

「警察に調べてもらってクビにしてください」と店長が提言したが、社長も細川が盗んだとは思えず、「でも、証拠が…」と気乗りしない様子だ。

「リュックに通帳が入っていたのにですか?」

 店長は興奮して言った。

 だが社長は、「バックルームに落ちていたって言われたら、それ以上何も言えないだろ?従業員を疑うことはできない…」と力なく言った。

 通帳という証拠があるのに警察に言わず、細川をクビにする様子もない社長に店長はがっかりした。

 細川のせいで店長は弁償金として何十万円も支払わされたのだ。