デザイン思考の
中核にある哲学とは?
では、具体的にどのような方法論なのか。まず押さえておきたいのは、「人々の動機や考え方を理解する」という点。デザイン思考では「人間中心」と表現される。
人間中心にデザインや設計、開発を行うという方法自体は、数多くの研究や実例が、以前から存在する。しかし、これに注目して方法論に取り入れたことが、デザイン思考の特徴だ。
ひとつ例を挙げよう。1980年代、当時のPC用のマウスには高価で複雑な部品が使われていたが、これを嫌うスティーブ・ジョブズ氏(米アップルの創業者)から、マウス改良の依頼がIDEOにあった。開発に取り組んでいると、ユーザーはマウスの精度よりも、操作性に重きを置くことがわかった。そのため、部品数を減らし、シンプルな構造にした。
これが初代Macのマウスの「LISA MOUSE」である。それまでのマウスの常識を覆して、その後のマウス開発の基準となった。人間を中心に構想したが故のアイデアである。そしてこれをきっかけにIDEOの名は知れ渡った。
顧客の真のニーズや欲求を考慮しながら、技術(技術的に実現できるか)、ビジネス(経済的に実現できるか)、人間(人間にとって有用か)の3つのバランスを意識し、この3つが交わる点を探求する。
そのために、着想→統合→アイデア創造と実験→実現、という4つのプロセスを繰り返す。これが「デザイン思考」と呼ばれる方法論である。(図参照)
さらにデイヴィッド氏とトム氏は次のように述べている。
「私たちは方法論を絶えず修正し、進化させている。ぜひ皆さんも、独自のバージョンを自由につくり、自分自身の状況に合った手法を考え出してみてほしい」
デザイン思考に関してさらに理解を深めるため、IDEO Tokyo共同代表のマイク・ペン氏にインタビューを行った。