結論を急ぐと
良い答えは生まれない
――「デザイン思考」をかみ砕いて説明するとしたら、どのように説明しますか?
「問題解決やアイデアを創出するための、クリエイティブなアプローチ」です。その際、人間中心に考えることを主軸にして、アイデアの源泉を求めます。
IDEOは、企業全体に影響を及ぼすような課題やビジネス、社会や行政に関する大規模で複雑なシステムのデザインも手掛けるようになりました。そのときに、デザイナーがアイデアを考えるときと同じアプローチを使うのです。それが「デザイン思考」と呼ばれるゆえんです。
――「人間中心」とはどういうことでしょうか。
「常に人を中心に考える」という、デザイン思考を実践する上での基本的なマインドセット(編集部注:価値観や信念)です。事業としての可能性、技術的な実現性、そして何より、それが人の求めるものかどうか、ということが最も重要です。
ですから、われわれは課題にアプローチするとき、常に「なぜ人がそれを使いたいと思うか」「なぜ人がそれを好きだと感じるか」「今後、人はそれをどのように使う可能性があるか」などを深く考えます。作り手と使い手、双方を理解するところから始めるのです。
――IDEOが掲げている7つの価値のひとつに「Collaborate(共創する)」があります。なぜ共創が大切なのでしょうか。
私たちは、「デザイン思考はチームスポーツだ」とよく言っています。複数の人が集まり、ひとつの課題に力を合わせて取り組むことが大切だからです。ここで大事なことは、集まったメンバーがどこから来ているかということです。もしメンバーたちが同じような教育を受け、同じような考え方をする人たちだったら、課題に対してひとつの答えしか出せないでしょう。
しかし、まだ世に存在しない新しいものをつくり出すときは、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが、異なるアイデアや視点、考え方を持ち寄り、ひとつのプロジェクトに共に取り組むことが必要です。
「多様性」について大切にすべきは、ジェンダーや人種だけではありません。経験や専門性といったバックグラウンドの多様さがとても重要です。これによって、ひとつの考え方からは生まれないようなクリエイティブな解が出てくるのです。
――「Embrace Ambiguity(不確実さを許容する)という価値も掲げています。
最良の「解」のためには、良い「問い」を立てなければなりません。最初からすべての解がわからなくても、良い問いさえ立てることができれば、最終的には最良の解が出ます。しかし日本においては、今やっていることが何につながるのか、結論を急ぐ傾向にあります。最初から出すべき答えがわかっていれば、そもそもプロジェクトをやる必要はありません。ですから私たちは、クライアントに「問い」を投げかけ続けることに注力します。
全員がまだ答えのわからない曖昧な状況を受け入れ、良い「問い」を立てることに集中できれば、真にクリエイティブなソリューションが生まれるはずなのです。