昨今注目を集めている哲学。2018年、152万部を超える大ベストセラーとなった『漫画 君たちはどう生きるか』は、哲学書としても扱われ、注目を集めた。今回は10月に著書『哲学嫌い』(秀和システム)を上梓した比較文学者・作家の小谷野敦氏に、教養としての哲学について話を聞いた。(清談社 福田晃広)
前提が成り立っていない
ポストモダンは学ぶ価値なし
日本では戦後から、たびたび哲学がはやってきた。20世紀最大の哲学者とも称されるサルトルが唱えた「実存主義」や、レヴィ=ストロース、アルチュセールなどの思想家が代表する1960年代の「構造主義」、80年代初頭のフーコー、ドゥルーズ、デリダなどのフランス現代思想を受け継いだ「ポストモダン」などだ。
特に、ポストモダンは1983年に出版された浅田彰『構造と力』、中沢新一『チベットのモーツァルト』の多大な影響によって、当時の若者の間で大流行し、後に「ニューアカデミニズム」と呼ばれるほどのブームとなった。
その後も2010年にはハーバード大学教授、マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう: いまを生き延びるための哲学』、2017年『哲学用語図鑑』が、哲学書として異例の累計15万部を記録するヒットとなっている。それだけ哲学に興味を持つ人が多いということなのだろう。
ところが小谷野氏は、「必ずしも哲学に関する本を読むことは否定しない」と前置きしつつ、「フランス現代思想や、一般にポストモダンと呼ばれる哲学者の著作は読んでも無駄だ」と断言する。