『週刊ダイヤモンド』2月8日号の第1特集は、「富裕層 親リッチと成り上がリッチの金・節税」です。株高と不動産バブルを背景に、約127万世帯にも達した純金融資産1億円以上の富裕層。その子供である「親リッチ」と一代で財を成した「成り上がリッチ」は、どのような価値観を持ち日々の生活を送っているのか。富裕層をめぐるお金事情と、国税当局とイタチごっこを繰り広げる節税の実態に迫りました。

富裕層300兆円市場の舞台裏

 「この5年間ぐらいは投資家にとって大きなボーナスステージだった。何だかんだいってアベノミクスの恩恵が大きい。共産党が『金持ち優遇策だ』と政権批判をしていたが、まさしくその通りだと思う」

 そう言って笑うのは、首都圏にマンションなど数十棟の不動産を所有する富裕層の男性だ。

 「『ミシュランガイド東京』の三つ星評価のレストランを全て制覇した」「一回着席するだけで20万円の銀座のクラブに通っている」 

 投資家の集まりに顔を出せば、そんな景気のいい話を耳にしたことは一度や二度ではない。デフレや賃金の伸び悩みで、日本の貧困層は増え続けているのにもかかわらず、である。

 富裕層の拡大は、統計上も明らかだ。野村総合研究所の推計によれば、預貯金、株式、債券、投資信託など純金融資産保有額1億円以上の富裕層は2017年時点で127万世帯、資産規模は300兆円に上る。

 全世帯のわずか2%強が国内個人資産の2割を保有する計算だ。08年のリーマンショックで富裕層は一時的に減少したが、冒頭の男性が指摘するようにアベノミクスが本格化した13年以降、富裕層の世帯数と資産規模は増加の一途をたどる。

 この要因について野村総研コンサルティング事業本部の宮本弘之パートナーは「アベノミクスによる景気拡大と株価上昇で富裕層の保有資産が増加したことに加え、純金融資産保有額1億円未満の準富裕層が富裕層に移行したことが大きい」と分析する。

 つまり金融資産に投資する財力を元々持ち得た富裕層がさらに富を増やし、株や不動産などによって一代で財を成した「成り上がリッチ」を生み出したのが、アベノミクスの実態というわけだ。

 では彼ら成り上がリッチたちは、具体的にどのようなきっかけで大金持ちとなったのか。ダイヤモンド編集部は今回、20人以上の富裕層に対面やメールで取材し、彼らの生態解明を試みた。

勝機を逃さない成り上がリッチのカネへの「嗅覚」

 「某Fランク大学卒業後、システムエンジニアの偽装請負で働いたんですが、つらくて1年で辞めてしまいました。通勤が本当に嫌で……」

 現在、都内でIT関連会社を経営する青山浩二さん(仮名、40代)が2000年代前半に脱サラし、一人で始めたのがアフィリエイトビジネスだった。インターネットを利用した成果報酬型の広告ビジネスは、今でこそ副業として人気だが、当時はそれほど広く認知されていなかった。

 「『僕のサイトに広告を出しませんか』と100社にメールして、そのうち1社くらいは返信があった。今考えると完全にスパムメールですが(笑)、それで食いつなぎ、少しずつですが売り上げも伸びました」

 作業量が増えて従業員を雇うようになり、2年後に法人化。FX(外国為替証拠金取引)口座の開設やウオーターサーバーの販売、カニのお取り寄せ──。さまざまなサイトを立ち上げ、広告の売り上げのめどが立つとサイトごと売却することを繰り返した。

 だがアフィリエイトの収入だけでは売り上げの変動が大きい。青山さんの場合、個人資産を大きく増やしたきっかけが仮想通貨バブルだった。

 「16年ごろ、アフィリエイトを通じて知り合った人から『これからは仮想通貨だ』と聞いたんです。イーサリアムが1000円ぐらいのときによく分からないまま買ったら、すぐに100倍になった。その知人は今は海外で暮らし、『俺は法定通貨を持たない』と豪語しています(笑)」

 青山さんが現在保有する純金融資産は4億円超。保有株や海外ETF(上場投資信託)の配当収入だけで暮らせる富裕層だ。「ある程度の金融資産をつくることができたので、会社を縮小して新たな事業を始めたい」と話す。

 脱サラした青山さんと異なり、サラリーマンを続けながら富裕層の仲間入りを果たした人もいる。 

 関西出身の田中充さん(仮名、40代)が商社勤務を続けながら副業として始めたのが、安価で買い取った商品を第三者に転売して利ざやを稼ぐ「せどり」だ。

 「語学力を生かして海外製の掃除機などを仕入れ、ネットで転売しました。最初は自宅マンションの部屋に保管していましたが、すぐに手狭になって倉庫を借りた。会社の給料以外で月収100万円は稼ぎましたね」

 田中さんが副業を始めたのは、仕事やプライベートで接した富裕層に触発されたことがきっかけという。「金持ちになる人は、学歴がなくてもずぬけた行動力がある。彼らの収入に比べれば、どんな一流企業で働いても高が知れていると思った」。

 現在、全国に15件ほどの不動産を保有する田中さんもそうだが、近年の不動産バブルは多くの成り上がリッチを生み出した。

 コアプラス・アンド・アーキテクチャーズ代表取締役で『Excelでできる不動産投資「収益計算」のすべて』の著者の玉川陽介氏は「異次元金融緩和が始まると、銀行や信用金庫が競い合うようにして不動産向け融資に走った。超低金利なので、借りる側からすれば借入金利と賃貸利回りのスプレッド(差額)を多く稼げる。フルローンで不動産投資ができるような国は、世界中を探してもほかにない」と話す。

 18年にスルガ銀行の不正が発覚し、不動産投資向け融資は引き締められることになったが、それでも金融政策が生んだ不動産バブルの恩恵を享受した者は多い。

 他の成り上がリッチたちへの取材でも資産を大きく増やしたきっかけとして、「不動産の転売」「(東京都)港区に買ったマンション用地を2倍の価格で売ったこと」などといった声が多く聞かれた。 

 仮想通貨に不動産バブル──。こうした時流にうまく乗ったことが、成り上がリッチたちの共通点だ。ただしバブルはいつ、どのような形で起きるか誰にも分からない。少なくとも、バブルに素早く対応できる情報収集力と行動力を持つことが、成り上がるための前提条件といえそうだ。

富裕層の急増で注目集まる「親リッチ」の存在感

 こうした成り上がリッチと対を成す存在といえるのが、富裕層である親や祖父母から遺産相続や生前贈与を受けた「親リッチ」で、近年その層が増えていることも富裕層の増加を後押ししている。

 富裕層世帯の平均的な出生数などから推計すれば、全国の親リッチは現在235万人。「隠れた消費のけん引役」とされる親リッチの増加という商機を生かすべく、銀行や証券会社、百貨店の外商などは親リッチたちの取り込みに大きく動き始めている。

 『週刊ダイヤモンド』2月8日号の第1特集は、「富裕層 親リッチと成り上がリッチの金・節税」です。

 富裕層は、先祖代々の土地を受け継ぐ地主や同族企業のオーナーといった伝統的な「親リッチ」と、株や不動産などへの投資で一代で財を成した「成り上がリッチ」の2つに大別できます。

 富裕層の中でも、上位層になると資産規模が数千億円にも上る中で、お金に対してどのような価値観を持ち、また日々どのような生活を送っているのか。

 今特集では、そうした富裕層の「生態」を解き明かすと共に、個人の資産管理管理会社を通じた大規模な「租税回避」や徹底した節税術の実態にも迫りました。

 さらに、「超富裕層」インタビューとして、カレーハウスCoCo壱番屋やホテル事業などを展開するアパグループの創業者の生の声をお届けしています。

 節税に頭を悩ます中小企業オーナーから、一攫千金を夢見るプチ富裕層に至るまで、興味をそそる情報を可能な限り詰め込んだ今特集を、是非ご一読頂ければ幸いです。

(ダイヤモンド編集部 中村正毅、重石岳史、大根田康介、田上貴大、布施太郎、笠原里穂)