「パス」し続けて勝っていた

 偉そうに書きましたが、かつての僕は格下の相手に「負けない戦い方」を繰り返していた張本人でした。

 ストリートファイターⅣで僕が勝てなくなった時期に多用していた技に「阿修羅閃空」という技があります。攻撃力はないのですが、相手の攻撃をいなして仕切り直すことができる、トランプなどのカードゲームでたとえると「パス」に近い技。勝負所を留保でき、大変便利です。

 その強みを理解していた僕はゲーム稼働初期から、阿修羅閃空を多用していました。危険な状況になるとそれで勝負を避けるやり方です。特に、自分が実力で優る相手には、取りこぼすことはほぼありませんでした。相手からすればせっかくの勝負所が来ても「パス」されてしまうのだから、チャンスがなくなってしまうわけです。

 これに対する基本的な対処方法は、阿修羅閃空を一点読み(相手の行動が複数予測されるとき、そのうちのひとつに絞って対応)することです。しかし、そこに狙いを絞ってしまうと今度は、逆に攻撃のチャンスをみすみす失うことにもなる。つまり阿修羅閃空とは持っているだけで相手を惑わせる、大変強力な技なのです。

 しかし、少しずつプレイヤーの目が慣れてくると、様相は変わっていきました。特に、実力が同等かそれ以上のプレイヤーからは「ときどは困ったり厳しい状況になると阿修羅閃空に頼る」と見透かされてしまい、ここぞというときに読まれて逆転負けをするようになってしまったのです。

 勝負事はどんなに力の差があっても、「五分の立場」になって戦わなければならない瞬間があるものです。それが勝負の醍醐味でもありますし、その覚悟がないならやるべきではありません。

 阿修羅閃空のような便利な技や実力の優位にあぐらをかけば、僕のようにその隙を突かれることになります。自ら積み上げた実力でさえ隙になりかねません。「メンタルを常に挑戦者モードに保つ」ことは、自分の実力を最大限生かすことにつながるのです。