新型コロナウイルスの発生国として当初、槍玉にあげられていた中国は今、押さえ込みに成功しつつある国として、評価されている。しかし、中国式の対策を導入したイタリアとイランは感染者が増加の一途をたどっている。これはなぜなのか、欧州在住のある中国人女性の見解が話題を呼んでいる。(ジャーナリスト 姫田小夏)
「コロナ発生国」と非難されたが
今では世界の「お手本」に
「新型コロナウイルスの感染をいかに防ぐか」は、今や世界共通の課題だ。ウイルス発生国の中国では流行のピークが過ぎ、徐々に正常化しつつあると伝えられる。一歩先を行く中国の人々が世界に向けるのは、「中国に学ぶことができるのか」といったまなざしだ。
湖北省武漢市では、蔓延の初期段階において医療スタッフや病床の不足に加え、物資が不足して現場は大混乱となった。だが、瞬く間に5万人の医療スタッフが全国から集められ、10日間の突貫工事で病床が増加し、医療資源の不足は一気に解消された。
ウイルス拡散を防止するために中国政府が取った策は、人の移動を制限する「封鎖措置」だった。1棟1棟の集合住宅から1戸1戸の世帯に至るまで、住人を自宅から外出させないという、水も漏らさぬような厳重な管理ぶりだった。
3月1日、WHOの専門家、ブルース・アイルワード氏は、米メディアのインタビューに「中国が行った病例の発見、接触者の追跡、集会等の停止は世界共通の措置になる。特に政策のカギとなったのはそのスピードだ」と答えている。
中国の防疫措置の特徴を分析すると、「間髪入れずしてのスピード」と「一刀両断の徹底ぶり」、そして医療現場の人的不足やマスクなど物資不足を補うための「挙国一致の動員力」にある。そのベースにあるのは、移動の自由など人権の議論を許さない一党独裁の政治体制と経済力、そして何よりも、政府の一刀両断を受け入れる「国民の忍耐力」だった。
振り返れば、安倍政権が新型コロナウイルス感染症対策の基本方針を発表した2月25日、日本在住の中国人や日本に親族を持つ大陸の中国人から失望の声が上がった。「なぜ積極的に検査しないのか」「企業活動をいつまで続けさせるのか」といった疑問が噴出したのは、すべての力を防疫に注いだ“強制力ある中国式措置”とは異なるものだったからだ。
3月に入り、欧州や米国で感染が広がると、中国のネット民は欧米の一挙手一投足を注視するようになった。飛び交ったのは、「西側諸国は中国に学べるのか」といった議論だった。2か月前、「ウイルス感染源だ」と世界から非難された中国は、「今や世界のお手本だ」という意識を強めている。