「序列ゲーム」の中でいかにマウントをとるか。
これが人間の本質!?

岩瀬大輔さん岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
ライフネット生命保険株式会社創業者 1976年埼玉県生まれ。1997年司法試験合格。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティング グループ等を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で修了(ベイカー・スカラー)。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げ、2013年より代表取締役社長、2018年6月より取締役会長に就任。同年7月より18カ国の国や地域に拠点を有するアジア最大手の生命保険会社であるAIAグループ(香港)に本社経営会議メンバーとして招聘される(いずれも2019年退任)。著書は『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)、『ハーバードMBA留学記─資本主義の士官学校にて』(日経BP社)、『生命保険のカラクリ』『がん保険のカラクリ』(共に文春新書)、『ネットで生保を売ろう!』(文藝春秋)など多数。

岩瀬 『入社1年目の教科書』に、「同期とはつき合うな」と書きました。居心地の良い同期とばかりつき合うことで、視線が外へ向かわなくなっては困るからです。
サラリーマンは、仲間内で会社の話ばかりしますよね。誰が異動したとか昇進したとか、人事の話で盛り上がるだけではつまらないと僕は思うし、第一、閉鎖的すぎます。
こんな風に思うのは自分だけかと思いきや、田端さんも『これからの会社員の教科書』に「同期の連帯感は気持ち悪い」と書いていて安心しました。

田端 そうですね。ただ、サラリーマンの気持ちも半分はわかるんですよ。
結局、人のうわさ話は面白いんです。例えば、リクルートは個人主義の会社で、誰も他者のことなんて気にしていないように見えませんか? いいえ、社員間の競争が激しい分、人一倍、人事を気にしている人も案外います。これ、サラリーマン的には、すごく理解できる感情です。

岩瀬 人間の本質的な欲望であると。

田端 給料の額より、部下の数を気にする人のほうが多いんじゃないかな。「序列ゲーム」の中で、いかにマウントをとる、みたいなことは、生物学的に埋め込まれているのかもしれません。人間も動物ですから。

岩瀬 なるほど、そうなのですね。僕は新しい生命保険を立ち上げるという特殊な環境に身を置いていただけに、いわゆる「出世街道」みたいなものは経験してこなかったんです。別会社の役員をしていたあるとき、外国人の社員から、「あなたは他の役員とは違う」と言われたことがありました。「他の役員は自分の陣地を広げようとしているのに、あなたはできるだけ少数でやろうとしている。珍しい」って言われて。そりゃそうです。少数チームでインパクトを出したいじゃないですか(笑)。

田端 岩瀬さんと僕は、世の少数派だと思いますよ(笑)。
正直言うと、僕も管理職として人をたくさん使うのはあんまり好きじゃないんですよ。少なくとも20代の頃は、マネジメント職はやりたくない、スペシャリストになりたいと思っていました。それが30代になるとマネジメントの面白さに気づき始めて、「お声がかかるなら、やれるところまでやってみよう」と思うようになった。40代になって、ひと通りやりきったな、と。フリーになった今は、すごく気が楽です。
僕は、出世という「組織のヒエラルキー」を上ること自体は、あくまで「手段」だと捉えています。自分がやりたいことや理想をかなえるためにはもちろん必要だから、そのこと自体から逃げるつもりも否定するつもりもありません。でも、ほとんどのサラリーマンは、「出世すること自体が目的」になっているんです。

岩瀬 少なくとも、『入社1年目の教科書』、『これからの会社員の教科書』では、「出世が目的じゃない」というスタンスであることは明確にお伝えしたい。何かを成し遂げる手段だったり、何かを成し遂げた結果としての「出世」はあるかもしれないですけど…。あくまで、自分の人生においてどんなことを成し遂げたいかということが大切なのだと思います。

※田端氏×岩瀬氏対談はこれで終わりです