政府の対応で何よりも足りなかったのが、国民生活に対する手当だった。飲食店やマッサージ店などの封鎖に伴って、長期休業や解雇を命じられた従業員らへの休業補償は当初は何ら考慮もされなかった。故郷を目指す人々がバスターミナルに殺到する映像を見て、初めて認知するというお粗末さだった。

 こうした飲食店などで働く人たちは、所得水準の低い東北部や北部の出身者が圧倒的に多い。「準備期間もなくいきなり営業停止をしたらどうなるかは予想が付いたはず。重過失に近い」と憤る政府関係者もいる。

 娯楽の少なくなった国民が時間を持て余し、どのような行動に出るかのシミュレーションも機能しなかった。

 SNSでその様子が広がった東部バンセーンの砂浜は、バンコク中心部から車で1時間強と交通の便も良い。雨の降らない乾期の日曜日、若者たちが海辺などの観光地に集まることさえ予期することができなかった。全てが事後的で、場当たり的だった。

 感染者は3月22日に188人、23日に122人、24人日に106人と3日連続して100人を超え、1000人の大台を超えるのは時間の問題だ。

 マスクの着用や手洗いの励行は行ってきたと政府は主張するものの、街で暮らすタイ人の生活を見るとそれも限定的だ。屋外型の飲食店で手を洗うタイ人はまず見られないし、そもそも施設そのものがない。うがいをする姿はほぼ皆無だ。

 感染症対策に関わる国立ラチャパット大学スワンドゥシット校が実施した緊急アンケートの調査結果にも首をかしげざるを得ない。政府に要望する対策として、ロックダウンを求める声が最多の41%を占めたというのだ。

 本来、自由主義国にあって政府の強権を求める声が圧倒的多数を占めるとは考えにくい。政府の介入は最小限であるべきというのが近代国家の鉄則だ。公衆衛生対策や国民啓発など、タイ政府は今からでもできることに取り組むべきだろう。

(在バンコクジャーナリスト 小堀晋一)