新型コロナウイルスの感染拡大で金融市場が混乱する中で、ソフトバンクグループ(SBG)が4.5兆円の保有株の売却に乗り出した。紆余曲折を経て、資産を縮小する財務運営に急転換するまでの舞台裏を明かす。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
危機で浮上の「株式非公開化」
株価下落で孫社長の不満がピークに
「いっそ株式を非公開化したらどうか」
3月23日に総額4.5兆円の保有株売却と計2.5兆円の自社株買いに乗り出したソフトバンクグループ(SBG)は、ぎりぎりの段階まで、究極の「株価対策」を模索していた。
それが、孫正義会長兼社長が自ら資金を借り入れて市場の株式を買い取る株式非公開化の案だ。関係者によると、3月の3連休の中日にあたる21日までに、SBG幹部の間で議論されたという。
孫社長が株式の非公開化を検討したのは、これが初めてではない。2008年のリーマンショック後の株価低迷や、傘下の米通信会社スプリントの業績低迷が顕著になった15年にも非公開化が議論されたことが分かっている。
株価が「異常値」にまで落ち込む度、それに不満を持った孫社長が自ら資金を投じてMBO(経営陣による自社買収)に乗り出す案が浮上したが、いずれも見送られている。それが再び俎上(そじょう)に載ったのは、足元の新型コロナウイルス感染拡大による金融市場の混乱が深刻化している表れでもある。
コロナショックで株価が下落する以前から、孫社長は、SBGの株価が「実力以下でしか評価されていない」と不満を募らせてきた。19年12月末時点で、中国・アリババ集団、国内通信子会社ソフトバンク、スプリント、英半導体設計会社アームなどSBGが保有する株式の価値は約27兆円だったが、SBGの時価総額はそれを大幅に下回っていたためだ。3月に入って株価が連日下落してその差が一段と広がり、孫社長が「株価対策」に再び動き出した。
最初に手を打ったのが、3月13日に発表した5000億円を上限とする自社株買いだ。ちょうどSBGに出資する米ファンド、エリオット・マネジメントが最大2兆円の自社株買いを要求していたため、SBGはそれに応じたように見えるが、SBG幹部によると「エリオットの要求よりも、孫さん自身がやりたかったのが実態だ」という。
だが、その狙いは裏目に出た。米格付け会社のS&Pグローバル・レーティングは17日、自社株買いの発表でSBGの財務の健全性に疑義が生じたとして、格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に変更。
さらに、同じ17日にはSBGが米シェアオフィス大手のウィーカンパニーに実施していた最大30億ドル(約3200億円)のTOB(株式公開買い付け)を見直す可能性があると既存株主に通知したことが明らかになり、もともと不安視されていた財務悪化懸念が一段と高まり、株価下落に拍車がかかった。
19日にはSBGの株価は3年8カ月ぶりの安値に落ち込み、時価総額は6兆円を割り込んだ。通信子会社ソフトバンクの時価総額を下回るレベルで、もはや、アリババ、スプリント、アームの価値は「ゼロ」と評価されたに等しく、SBG内部には激震が走った。こうして究極の策として再び浮上したのが冒頭の株式の非公開化の案だった。