孫正義会長兼社長の肝いりであるソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資の失敗で、ソフトバンクグループ(SBG)は同社史上最悪の四半期損失を計上した。2000年から孫氏の経営を財務面から支え、数々の危機を乗り越えてきた後藤芳光専務執行役員CFO(最高財務責任者)は、今回の“事件”をどう見たのか。特集「孫正義、大失敗の先」(全7回)の第6回Series Fは、金庫番への直撃インタビューである。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二)
ウィーの「支援」に
乗り出したワケ
――2019年7~9月期の3カ月で営業損失7000億円という、ソフトバンク史上最悪の赤字を計上しました。グループの財務を預かる立場として、どう受け止めていますか。
結論としては、大きな問題は起きていません。確かにウィーワークの損失が顕在化したので、四半期の数字が悪くなった。ただうちの会社は投資会社としての事業モデルを推進しているので、連結営業利益や連結キャッシュフローなどは全く会社の価値とは関係がないのです。
投資会社として全ての投資が当たって利益が出れば、それほど素晴らしいことはない。しかし投資事業とはそんなものではなく、ポートフォリオには損失が顕在化するものがどうしても出てきます。
だからソフトバンク・ビジョン・ファンドの成功や失敗についても、四半期だけではなく累積で見るべきです。累積ではしっかりと投資収益が出ています。その意味では今回のことをどう受け止めるかと聞かれれば、総括すると順調ということです。
――投資会社のSBGの評価は、四半期の営業利益では測れないと?
はい。SBGの投資先のポートフォリオの保有株の価値を全部足し上げた時価が27.9兆円で、そこから借金を引いた残りがこの会社の価値です。
子会社の借金を僕らが返す義務はありません。だからSBG単体の純有利子負債を差し引いた22.4兆円が、僕らの本当の現在価値です。
――子会社ビジョン・ファンドの投資先である米ウィー・カンパニー(ウィーワーク)の支援にSBGが乗り出すのはなぜですか。
それはSBGがウィーに直接投資しているからであって、ビジョン・ファンドの投資先だからという理由では全くありません。ウィーにはビジョン・ファンドが30億ドルを投資しているのに対し、SBG本体からは60億ドルを投資しています。
だから今回のことは、SBGとして投資回収を最大化するための最善の策です。このまま投資をやめてしまうのも一つの選択肢でしたが、あの会社のサービスはユーザーの満足度も非常に高くて素晴らしい。追加投資をした方がウィーワークが立ち直り、回収の可能性が高いという判断です。その結果としての追加投資にすぎず、これは救済でも何でもないのです。