ATSなど設備面の
進歩だけでは事故は防げない

 ただし、この事故を受けて、当該事故区間を含めたATS装置の配備は進んだ。そのほかにもホーム柵の設置をはじめ、JR西日本は事故以降、毎年1000億円前後という多額の安全投資を行ってきた。そのおかげもあってか、同社の鉄道運転事故の件数は、事故が起きた2005年度には133件あったものが、2018年度はわずか58件と、大幅な減少となった。

 さらには2014年、鉄道事業者で初めてとなる計画運休を実施して、自然災害時における前向きな運休を業界で一般的にした功績も大きい。事故から15年たった今も、同社は「福知山線列車事故のような事故を二度と発生させない」として安全に対する誓いを打ち立てている。その取り組みは今後も終わりはないだろうし、決して忘れてはならない。

 しかし、安全計画や設備が整ったのに、扱う側の人間によって発生してしまった事故がJR西日本で近年、2つ起きている。いずれも多くの人々が犠牲になるような大惨事には至らなかったものの、一歩間違えれば大事故になっていた。

 1つ目は、2017年12月11日に発生した、のぞみ号台車破損トラブルだ。博多駅を発車し、小倉駅到着時点で乗務員は異臭に気がついていたものの、JR西日本管内は運行を継続してしまった。JR東海に運行が引き継がれた後、名古屋駅で異常を確認して運転打ち切り。その後の点検で台車の亀裂が確認されたという、新幹線初の「重大インシデント」に認定された事故だ。指令員の判断で途中で点検できる機会はあったものの、運転を継続してしまうという、あわや大惨事の一歩手前まで来ていた事故だった。

 2つ目は、2018年6月14日 山陽新幹線博多~小倉駅で発生した、人と新幹線の接触事故だ。事故発生後に到着した小倉駅では、係員が 車両に異変を感じながらも停止措置をしなかった。運転士も異音に気づきながらも、次の新下関駅に到着するまでの15分間走行し続け、指令員の指示でようやく臨時停止したのだった。破損によって部品が散乱しており、高架下に落ちれば落下事故、運が悪ければ、対向列車や後続列車に接触して脱線にもつながりかねない危険な状態であった。

 同社は「JR西日本グループ鉄道安全考動計画2022」の中で、「異常時には現場の判断を最優先とする」という考えを掲げている。しかし、これら2つの事故は、いずれもこれだけ危険な状況にありながらも「運転継続」という現場判断を下してしまった。

 はたから見れば、異臭・異音を感知すれば、真っ先に停止措置を取れば大きな事故を防げるのではないか?と考えるかもしれないが、当事者にとっては列車を止めること、つまり遅延・運休は、とても罪深いことであるという考えが染み付いていて、多数の乗客や先のJR東海管内にも迷惑をかけることを考えると、決断する勇気がなかったのだと予想できる。それほど、「定時運転こそが鉄道の原理である」という考え方が、今もなお根深く残っており、その風土が本来、真っ先に守るべきはずの安全を揺るがしているのである。