原理をふまえれば
対策の優先順位が見えてくる
つまり、「マスクに感染防止効果はない」を正確に表現するならば、「マスクに外に出ないほどの感染防止効果はなく、2メートルの距離をとるほどの感染防止効果もない。どうしてもやむを得ず、接近せざるを得ない場合の感染抑制効果しかない」ということになります。
したがって、どうしても3密の条件にならなければいけないときは、マスクは一定程度有効なのです。ただし、一般の人が医療用のN95という強力なマスクに殺到することで、それを絶対に必要とする医療従事者に行き渡らなくなっているという実情もあります。
岩田教授は先日行った緊急講義で、「方法」(how to)から入るとそれが絶対化されてしまうこともあるため、あくまでも感染経路の原理(一般生活における新型コロナウイルスの感染経路は「接触」と「飛沫」である)を踏まえた上で、「現実には理想通りにいかないこともあるため、優先順位が大事」とおっしゃっていました。そうした優先順位(医療従事者にN95のマスクが行き渡ることが優先)を考えて、「非常時には簡潔なメッセージを」というコンセプトを自ら体現し、「マスクに感染防止効果はない」と発言されているのだと、私は推察しています。
ですから、「マスクに感染防止効果はない」を文字通り受け取って、「マスクに感染防止効果はないのだからマスクなどしなくていい」と解釈するのは間違いということです。
新型コロナウイルスの感染原理は「飛沫」と「接触」です。そこから導き出される感染抑制効果は「外に出ない>>>距離2メートル>>>マスク」となります。外に出ないことが最善策。しかし、外にまったく出ない訳にはいきません。どうしても外に出なければならないときは、できるだけ人との距離を2メートルは確保すること、というように、感染原理から優先順位を導き出していくのです。
こうした原理を理解していれば、さまざまな場面で感染抑制効果を高める選択ができるようになります。
たとえば、電車に乗らなければならないときは、「マスクをして、他人と2メートル以上距離をとって電車に乗る>>>マスクをせずに、他人と2メートル以上距離をとって電車に乗る」となります。混雑していて2メートルの距離をとれない場合には、「マスクをして電車に乗る>>>マスクをしないで電車に乗る」となるでしょう。
会話をする場合には、「オンラインで遠隔で会話をする>>>マスクをして2メートル離れて会話する」となります。介助しなければならないときは、「(感染防止効果の高い)マスクをして介助する>>>マスクをしないで介助する」となるでしょう。
このように危機対象の本質、感染症の場合「どのように感染するのか」という「感染経路の原理」を踏まえることで、はじめて「優先順位」を正しく捉えて、適切に危機をマネジメントしていくことができるのです。