神戸大学岩田教授が
「マスクに感染防止効果はない」と言う真意

 講義の中で岩田教授は、「以前から『マスクに感染防止効果はない』と言い続けていて、未だに批判されることがある」とおっしゃっていました。岩田教授がこう主張する背景をひもとくと、このコロナ危機との向き合い方がわかってきます。

 まず、前提として、ウイルスは必ず「経路」があって感染すると岩田教授は話します。HIVや梅毒であればセックスが経路になるように、新型コロナウイルスの経路は「飛沫」と「接触」であると。

 医療現場ではエアロゾルといったことも生じる状況もあるが、一般ではほぼないのと、そういう超レアなケースにとらわれすぎると何をしたらよいかわからなくなり、一番しっかり対策しなければいけないところにフォーカスできなくなるため、新型コロナウイルスについて、一般の人は「飛沫」と「接触」から感染すると思っていればよいと話します。

 つまり、「『飛沫』と『接触』から感染する」ことが、「新型コロナウイルスの一般感染原理」ということになります。すなわち、全ての「対策」は、その「原理」の上に考えなければ、優先順位を間違えるし、状況にあった適切な方法を考えることができない、ということです。

 この連載では、
危機のマネジメントにおいてこそ、原理が重要であると論じてきました。私なりの表現をすれば、岩田教授の考えは、確かさが確認されている「原理」から具体的な感染防止、自己隔離の方法を導き出していく理路になっているのです。そのため、「原理」という補助線を引かないと矛盾しているようにみえたり、誤読してしまったりということもあります。逆にいえば、「原理に基づく感染防止法」(Principle Based Infection Prevention Method)として受け取れば、これ以上わかりやすいものはないというほどのシンプルな理路から、自分なりの感染防止策を取ることも可能になるのです。

 では、岩田教授が指摘する「原理」をふまえて、「マスクに感染防止効果はない」という発言の真意を考えてみましょう。岩田教授はマスクに関する見解を読売新聞の医療コラムに書かれていますので、一部引用しながら論じることとします。

 米CDC(疾病対策センター)が布マスクを推奨してる、とよく言いますが、そうではありません。
 あれは「家にいなさい。どうしても外出するときは距離をとりなさい。薬局の店員など「どうしても距離がとれない場合」は布マスクを使いなさい、です。なぜ布マスクかというと、「エビデンスのある医療用マスクが足りなすぎるから、それは病院で使うため」という理屈なのです。
 しかも、布マスクに予防効果は期待できません。むしろ、あなたが感染してるときに周りにうつさないためなのです(もっとも、この効果も実は科学的に示されていないのですが……)。
 ここでも、
 外に出ない>>>距離2メートル>>>マスク
 です。

*読売新聞の医療・健康・介護サイト「ヨミドクター」内のコラム「Dr.イワケンの『感染症のリアル』2020年4月23日公開の記事「外に出るな! どうしても出るなら2メートル離れろ! 非常時には簡潔なメッセージを」から引用。

 これを読むと、岩田教授の「マスクに感染防止効果はない」という言葉の真意は、マスクに意味がないと言いたいのではなく、新型コロナウイルスの感染経路が「飛沫」と「接触」であることをふまえれば、予防効果は「外に出ない>>>距離2メートル>>>マスク」なのだ、と言いたいことがわかります。