残念なリーダーは苦境で「感情的」になる
──「誠意・献身・決断力」を発揮せよ

 勝利の話をするのは気分がいいし、楽しいことだが、敗北についてはどうだろう?

 ビルは敗北についてもよく知っていた。彼はコロンビア大でアメフトチームのコーチをしていたとき多くの敗北を喫し、ビジネス界に入ってからも、CEOを務めたスタートアップのGOが倒産して、投資家から集めた巨額の資金を失った。

 失敗はすぐれた教師だ。ビルはこうした経験を通して、誠意と献身を保つのは、勝っているときは簡単でも、負けているときはずっとむずかしいことを学んだ。

 だがダンの物語で浮き彫りになったように、苦境のときこそ、誠意と献身がとくに必要になる。ものごとがうまく行かないとき、チームは前にも増して、リーダーにこうした特質を求める。

 あれはコロンビアで、ビルがとくに手痛い敗北を喫したときのことだ。ビルはロッカールームでチームに罵声を浴びせた。本気で彼らを吊るしあげた。

「あれは私が失ったチームだ」とビルはのちに語った。「私がチームを失ったのは、あの瞬間だった」

 彼はチームを鼓舞せず、誠意を示さず、彼らを助ける決断を下さなかった。ただわめき散らした。このときのことを、彼は深く胸に刻んだ。真に敗北した瞬間のことを。

 困難な状況では、決断力も重要になる。そのことはGOの最期の日々が示す通りだ。

 GOの創業者ジェリー・カプランは著書『シリコンバレー・アドベンチャー』のなかで、ビルがある日の午後、幹部の緊急会議を招集したときに訪れた、重要な瞬間のことを書いている。

 GOは苦戦を続けていて、売上はゼロに等しく、マイクロソフトから熾烈な競争を挑まれていた。このとき、ビルは結論を出した──GOはこの先生き延びることはないし、ましてや成功することは決してないだろう。彼は会社の売却を提案し、チームはしばらく話し合ってから同意した。

 理由は経済的なことではなかった。自分たちや投資家の資金をわずかでも回収しようとして身売りするのではない。自分たちの成し遂げた仕事を守りたかったのだ。

「大切なのはプロジェクトと組織を救うこと、われわれが築き上げたものを守ることだ」とビルは言った。

 事業に資金を提供し継続させてくれる大企業に身売りすれば、たとえ自分が失職することになっても、生み出したものを残せるのではないかと考えたのだ。このときビルの誠意は会社よりも、大義に向けられていた。

リーダーは先陣に立て
物事がうまくいかないとき、いつにも増して「誠意」「献身」「決断力」がリーダーに求められる。

(本原稿は、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著『1兆ドルコーチ──シリコバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』〈櫻井祐子訳〉からの抜粋です)