ビジネスや社会システムにおいて、
重要なキーワードとなった‟多様性”

 もともと「多様(diverse)」という言葉は「雑多」とか「様々に異なる」といった状態を指し、さほど積極的なニュアンスを含むものではなかったと思われる。それが前向きの意味合いで使われるようになったのは、20世紀後半、次の2つの分野においてである。

 ひとつは、雇用や人事など、ビジネスの分野において、だ。1965年、アメリカで公民権法に基づき、米国雇用機会均等委員会(EEOC)が設置され、人種・肌の色・性別・出身地・宗教・ジェンダー・人種・民族・年齢などの違い(=ダイバーシティ)による雇用差別を受けたと感じた人は誰でも訴えを起こせるようになった。ここでは、多様性とは人の属性のことであり、それを肯定し保護する姿勢が明確に表われている。さらに1980年代に入ると、アメリカでは大手企業を中心に、競争力を高める人事戦略として多様な人材を採用し、組織内で融合する‟ダイバーシティ&インクルージョン”の考えが広がった。多様性を活用する方向へ変わっていったのだ。

「ダイバーシティ」は、なぜSDGs実現のキーワードになるのか

 もうひとつは、自然科学の分野だ。生物学において、20世紀半ば頃、ある地域に住む生物とそれを取り巻く環境が互いに密接な関係を持ち、全体としてひとつの‟系”をつくりあげているという「生態系(エコシステム)」の概念が出てきた。この概念は、やがて地球規模に広がるとともに、世界各地で絶滅したり、絶滅の危機に瀕している生物種が増えていることから、「生物多様性(biodiversity)」という用語としてもクローズアップされるようになった。

 生物種が環境変化に対応して生き延びていくには、多様性を持った集団のほうが有利である。「多様」であることには大きなメリットがあり、保護・保全されるべきだと考えらえるようになっていった。

 こうして、現在、「多様性」はビジネスや社会システムにおいて、また、地球の生態系を考えるうえでも、きわめて重要なキーワードとして流布するようになっているのである。