SDGsの理念とダイバーシティ&
インクルージョンが符号すること
それでは、SDGsと多様性にはどのような関係があるのだろうか。
前述したとおり、SDGsの中に「多様性」というゴールはない。しかし、「2030アジェンダ」には、生物多様性、遺伝的多様性のほか、自然や文化の多様性、民間セクターの多様性、産業の多様化といった表現が繰り返し出てくる。SDGsにおいても「多様性」は欠かせないキーワードなのである。SDGsと多様性の関係について、ここでは2つのポイントを指摘しておきたい。
第一に、SDGs全体の理念として「誰一人取り残さない」という考え方がある。これは、ビジネスや社会システムの分野におけるダイバーシティ&インクルージョン(多様性の包摂)の思想とまさに同じだ。
ダイバーシティを重視して多様な人材を集めても、組織内でメンバー同士の反目や拒否感があると、それらの人材は簡単に辞めてしまう。そこで多様な人材が集まる状態を作り出したら、次は、その多様な人材がお互いに認め合い、受け入れ合う機会と風土を作り出すインクルージョンの取り組みが不可欠であるということだ。
SDGsにおいても、インクルージョンの考え方から、たとえば、ゴールの2番「飢餓をゼロに」では、日本国内でも弱い立場に置かれ、忘れられている子供や女性への支援を強化することが挙げられる。あるいは、8番「働きがいも経済成長も」では、障がい者の個性を生かした新しい就労機会を増やすことが求められる。
第二に、自然科学の分野における多様性は、生態系(エコシステム)と表裏一体のものだ。多様な生物種と環境の相互作用で生態系が構成・維持されており、個別に分離・分解することはできない。この考え方はSDGsの、たとえば、11番「住み続けられるまちづくりを」において、機能分化した都市開発ではなく、住居・商業施設・オフィスなどが適切に組み合わされた街づくりに通じるだろう。また、12番「つくる責任 つかう責任」においては、地産地消など地域での資源循環を意識した消費が求められる。
このように、多様性はSDGsの17のゴールの実現のため、具体的な取り組みを考え、実践していくうえで気づきや参考になるはずだ。